トランプ、ルペンよりもっと厳しい? 外国人の子供に国籍を与えない日本の「血統主義」
7.家族あれこれ
本編(『同僚は外国人。』)ではほとんど触れなかったが、外国人が家族を呼びたいという相談がよくある。家族というのがどこまでを指すのかというと、在留資格の世界では夫婦と子どもまでである。「日本人の配偶者等」という資格の「等」は子どもを指す。家族滞在もそれに準じている。多いのが「親を呼びたい」という相談で、これはほとんど不可能なのだが、一定の条件を満たせば呼べることもある。告示などで定められているわけではないが、本国に身寄りがない、老齢で病気がちであるといった条件がそろえば、人道上の見地から法務大臣が特別に認めることがあるのだ。もちろん、養う側にしっかりとした生活基盤がなければ問題外である。
ここで、ではどれくらいから老齢かということが問題になる。基準が定められている資格ではないので、あくまで想定でしかないのだが、以前は65歳以上と言われていた。この案内をした外国人が連絡をしてきて、親が65歳になったので呼び寄せて日本で面倒をみたいと相談があった。ところが日本は高齢化社会である。最近では70歳を超えないと難しいと言われているし、すぐに75歳になる可能性もある。
だが、日本のような高齢化社会は稀で、アジア諸国では50歳を超えると引退してしまうこともめずらしくない。こういう方を呼ぶのはほとんど不可能なのだが、やはり親の面倒をみたいと思うのだろう、ときどき相談がある。だが、彼らが呼びたい親というのがほとんど私と年が変わらないので、その話をするとだいたい諦めてくれる。ある外国人は、「日本は先進国でよい国で、文明的な生活ができるが、生きていくのは必ずしも楽ではない」と言っていた。
もうひとつ多いのが、妹を呼びたい、兄を呼びたい、兄弟を呼びたいという相談だ。この「兄弟」というのが曲者で、実はいとこだったりはとこだったりする。場合によっては法的な意味で親族ではなく、赤の他人であることもある。そもそも家族としての在留資格の対象ではないのでどっちでもよさそうなものだが、短期滞在で親族を訪問するときに申請の理由書の作成を頼まれることがある。兄と思って書いていたら、最後の最後でいとこだったということがわかり、肝を冷やしたことがある。核家族化した日本人にはなかなかわかりづらい家族関係である。
8.出生地主義
私がビザの専門家であると知ると、興味本位で質問してくる人たちがいる。いろんな質問をもらうが、よくあるのが「外国人同士が日本で結婚して子どもができたら、日本の国籍はもらえないの」という質問である。
世界にはその国の領土内で生まれたら国籍がもらえる国がある。例えば、カナダ、アメリカ、ブラジルなどがそうだ。これを出生地主義という。親が短期滞在の旅行者であっても、不法入国者であっても、子どもが領土・領海内で生まれればその国の国籍が取れる(飛行機や船舶の中でも適用される)。これを狙って妊婦がアメリカに渡り、そこで出産して子どもにアメリカ国籍を取らせる。親はその扶養者として滞在が許可されるので、意図してアメリカで出産する人たちがいる、というのがアメリカでも問題になっている。ちなみに、トランプ米大統領はこの出生地主義を改めたいという発言をしている。
一方、日本は血統主義である。両親のいずれかが日本人であれば、出生により日本国籍を取得する。つまり、最初の質問の答えは「もらえない」である。外国人労働者の受け入れ論議の際、欧州のようになってしまわないかという指摘があった。欧州はほぼ血統主義ではあるが、一部の国では出生地主義を一部取り入れている。政府が「これは移民政策ではない」と主張していた背景には、この国籍法の違いを意識していたことがあったと思う。
例えばフランスでは、子どもがフランスで生まれ、5年以上フランスに住んでいると、フランス国籍が欲しいと意思表示をすれば国籍が取得できる。日本にはこういう例外はない。だから、フランスの極右勢力のルペン氏などは、日本の国籍法と同様にすべきだと主張するのである。
「外国人を日本人の養子にした場合、日本国籍はもらえないのか」という質問もある。これは、できなくはない。ただし6歳以下の子どもに限る。つまり特別養子の基準である。特別養子では実の親との関係が切れてしまうので、さすがに日本国籍を認めないと困ったことになるからだ。一方、一般養子では日本国籍は取得できない。一般養子に日本国籍を認めてしまうと、相続目的と同じように国籍取得を目的とした養子が横行するだろう。トランプ米大統領の移民政策やルペン氏の政策が過激だとよく話題になるが、日本の外国人政策の方がずっと厳しいとも言えるのだ。
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