最新記事

感染症対策

迷走続く米国の新型コロナウイルス対策 世界経済に最大のリスク

2020年7月26日(日)15時39分

10年に及ぶ景気拡大が終わりにさしかかった2018年。「晴天」の世界経済を引っ張っていたのは、減税と財政支出で国内外を潤す米国だった。写真は5月、米テキサス州ガルベストンで撮影(2020年 ロイター/Callaghan O'Hare)

10年に及ぶ景気拡大が終わりにさしかかった2018年。「晴天」の世界経済を引っ張っていたのは、減税と財政支出で国内外を潤す米国だった。

しかし現在、世界経済を回復から引きずり下ろしかねないのもまた、米国の政策だ。同国の新型コロナウイルス危機への混乱した対応は、世界景気の回復持続を脅かす最大のリスクとなっている。

メキシコから日本に至るまで、当局者は既に神経をとがらせている。ドイツは輸出が打撃を被り、カナダは米経済の成長に悪影響が広がれば、その余波は免れないと案じる。

国際通貨基金(IMF)は米経済に関する報告書で「世界的に今後数カ月から数年間は困難な時期となるだろう。特に懸念されるのは新型コロナの感染者数がまだ増え続けていることだ」と指摘。米国で貧困者が増え、「社会不安」が広がることを経済成長のリスクの1つに挙げた。

「今後数年間にわたり、米国民の大部分が生活水準の大幅な悪化と厳しい経済的困窮を強いられるリスクがある。ひいては需要がさらに弱まり、経済への長期的な逆風が強まりかねない」という。

この認識の裏には、一連の厳しい現実がある。米政府は4、5月に経済活動を制限したのに伴い、約3兆ドル(約321兆円)の景気対策を打ち出した。しかし対策が期限を迎えようとしている今、同国では新型コロナ感染症が猛威を振るっている。同国の感染者数は360万人を超え、死者は14万人に及んだ。1日の新規感染者数は5月半ばから3倍に増えて7万人を超え、4月から7月にかけて徐々に減少していた死者数の7日移動平均は増加に転じた。

一方、諸外国では常識になったマスク着用といった問題でさえ、米国では意見が対立。テキサスやカリフォルニアといった一部の州は制限措置を再開している。米国の就業者数は2月の水準を1330万人も下回ったままだが、アナリストは既に景気回復が頭打ちになる可能性を指摘している。

泣き面に蜂

国内で新型コロナ・景気対応に追われる主要国にとって、これは泣き面に蜂だ。

米国経済は世界の総生産(GDP)の約4分の1を占める。その大部分はサービス関連で、新型コロナの影響を直に受けるのはレストランなど世界経済との結び付きが弱い業種とはいえ、負の波及効果が全く無いわけではない。失業者が増えれば消費が減り、輸入も減る。景況感の悪化は、諸外国で生産されることの多い設備や資材への投資減退につながる。

米国の輸入額は1─5月に13%超、約1760億ドル減った。

5月のドイツの対米輸出は前年同月比36%も落ち込んだ。ドイツは新型コロナ感染症の封じ込めで世界屈指の成功を収めたと考えられている国だ。

日本の景気回復スピードは、米国が感染症封じ込めに成功するかどうかに直結するとみられている。

第一生命経済研究所の熊野英生・首席エコノミストは、米国で新型コロナの感染拡大が止まらず、さまざまなアジア諸国からの対米輸出が伸びなければ、日本の景気回復は確実に遅れるだろう、と言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、Xに1.4億ドル制裁金 デジタル法違反

ビジネス

ユーロ圏第3四半期GDP、前期比+0.3%に上方修

ワールド

米、欧州主導のNATO防衛に2027年の期限設定=

ビジネス

中国の航空大手、日本便キャンセル無料を来年3月まで
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中