最新記事

感染症

アフリカで進行する「静かな感染拡大」 深刻な新型コロナのデータ不足

2020年7月12日(日)12時30分

届かない監視の目

情報共有を拒む国もあるが、そもそも情報共有が不可能という国もある。大規模な検査、監視、接触追跡を実施するには、あまりにも医療システムが疲弊しているからだ。

「最も恵まれた時期でも、各国から質の高いデータを収集するのは容易ではない。あまりにも従事者への負担が大きいからだ」と語るのは、アフリカCDCのジョン・ンケンガソング所長。「そこへ緊急事態が重なれば、データ収集はこのうえなく困難になる」

たとえばブルキナファソ、ニジェール、マリといった国々では、イスラム原理主義武装勢力や民族主義武装勢力が広範囲で活動しており、各国政府が疾病のまん延について全国レベルで実態を把握することが不可能になっている。

ブルキナファソにおいて、感染者と接触があった人や海外からの入国者に対する検査件数がかなり限られてしまうのは、他国と同様、検査キットが不足しているからだ。保健省の報告書からは、そのせいで国内での感染経路に関するデータがほとんど得られていないことが分かる。

国際支援団体の「国境なき医師団」に参加する疫学者フランク・エール氏によれば、カメルーンやナイジェリアなど一部の国では国内各地の自治体による検査が行われているが、それ以外の多くの国では、首都以外では検査能力がひどく限定されているという。

人口8500万のコンゴ民主共和国では、すでにエボラ出血熱に対応した経験があり、3月末に初めて新型コロナの感染が判明した際にも、すばやく国際線の運航停止や首都キンシャサの一部ロックダウンに踏み切った。

それでも、同国の新型コロナウイルス感染症対策委員会に名を連ねるスティーブ・アフカ氏によれば、政府がキンシャサ以外の地域での検査実施に至るには3カ月を要したという。原因は検査施設、設備、人員の不足である。2人の医師によれば、多くの地域では依然として検査結果が出るまでに2週間かかっているという。

アフリカ大陸で最も経済が進んでいる南アフリカ共和国は、大規模な検査を展開している数少ない国の1つだ。だが6月10日の時点では、未処理の検体が6万3000件以上も積み残されていた。同国保健省によれば、グローバルなサプライヤーが検査キットの需要に対応できなかったからだという。現時点で未処理のまま残されている検体数について問い合わせたが、国営の検査機関は情報開示を拒んでいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中