アフリカで進行する「静かな感染拡大」 深刻な新型コロナのデータ不足
届かない監視の目
情報共有を拒む国もあるが、そもそも情報共有が不可能という国もある。大規模な検査、監視、接触追跡を実施するには、あまりにも医療システムが疲弊しているからだ。
「最も恵まれた時期でも、各国から質の高いデータを収集するのは容易ではない。あまりにも従事者への負担が大きいからだ」と語るのは、アフリカCDCのジョン・ンケンガソング所長。「そこへ緊急事態が重なれば、データ収集はこのうえなく困難になる」
たとえばブルキナファソ、ニジェール、マリといった国々では、イスラム原理主義武装勢力や民族主義武装勢力が広範囲で活動しており、各国政府が疾病のまん延について全国レベルで実態を把握することが不可能になっている。
ブルキナファソにおいて、感染者と接触があった人や海外からの入国者に対する検査件数がかなり限られてしまうのは、他国と同様、検査キットが不足しているからだ。保健省の報告書からは、そのせいで国内での感染経路に関するデータがほとんど得られていないことが分かる。
国際支援団体の「国境なき医師団」に参加する疫学者フランク・エール氏によれば、カメルーンやナイジェリアなど一部の国では国内各地の自治体による検査が行われているが、それ以外の多くの国では、首都以外では検査能力がひどく限定されているという。
人口8500万のコンゴ民主共和国では、すでにエボラ出血熱に対応した経験があり、3月末に初めて新型コロナの感染が判明した際にも、すばやく国際線の運航停止や首都キンシャサの一部ロックダウンに踏み切った。
それでも、同国の新型コロナウイルス感染症対策委員会に名を連ねるスティーブ・アフカ氏によれば、政府がキンシャサ以外の地域での検査実施に至るには3カ月を要したという。原因は検査施設、設備、人員の不足である。2人の医師によれば、多くの地域では依然として検査結果が出るまでに2週間かかっているという。
アフリカ大陸で最も経済が進んでいる南アフリカ共和国は、大規模な検査を展開している数少ない国の1つだ。だが6月10日の時点では、未処理の検体が6万3000件以上も積み残されていた。同国保健省によれば、グローバルなサプライヤーが検査キットの需要に対応できなかったからだという。現時点で未処理のまま残されている検体数について問い合わせたが、国営の検査機関は情報開示を拒んでいる。