最新記事

アフリカ

ナイジェリアの分離独立「ビアフラ闘争」、内戦から半世紀を経ても未だ終わらず

Biafra’s Pain Is Still Fresh

2020年7月4日(土)14時00分
パトリック・エグウ

海外でも、カヌの支持者たちは欧米各国のナイジェリア大使館や領事館の前で抗議行動を繰り広げた。カヌは裁判なしで18カ月以上も勾留された揚げ句、2017年4月に厳しい行動制限付きの条件の下で釈放された。しかし抗議行動が収まることはなく、南東部の分離独立を求める声は大きくなるばかりだった。

それでもムハンマド・ブハリ大統領(北部に多いフラニ人の出身でイスラム教徒)の率いる中央政府は住民投票の実施を断固として退け、国家の統一は「交渉の余地なき」大前提であるとし、分離主義者の要求には絶対に屈しないと宣言した。

同年8月、さらに苛酷な運命がビアフラ独立派に降り掛かった。政府軍が「パイソンダンス作戦」と称する掃討戦を開始。活動家の拠点を襲撃し、複数の活動家が殺害される事態となった。南東部ウムアヒアにあるカヌの自宅も治安部隊に襲撃された。IPOBによれば、それは「カヌの暗殺を目的とする計画的な試み」だった。しかしカヌは支援者の手で救出され、2018年10月にイスラエルに姿を現した後、直ちにイギリスへ戻っている。

一方、IPOBは2017年9月に非合法化され、テロ組織と認定された。ただしアメリカは、ビアフラの分離独立を支持しない立場を堅持しつつも、現時点ではIPOBをテロ組織と見なしていない。

IPOBに結集する人たちも、非合法化くらいではひるまない。独立の悲願を達成するまでは一歩も引かない構えだ。

無理もない。あの虐殺から50年、ナイジェリア政府はイボ人の不満に向き合おうとしてこなかった。あの悲惨な過去をオープンに語り合うことができれば互いの心の傷も癒え、和解が進み、国民の結束につながるのではないかと専門家は指摘する。しかし200万を超える犠牲者の名誉はいまだに回復されていないし、補償も一切ないという。

ナイジェリアは、今なお民族と宗教によって分断されている。それが地域による格差を生む。連邦国家といっても南東部は冷遇され、閣僚の割り当ても少ない。民族間・宗教間の緊張は高まる一方だ。2015年にイスラム教徒のブハリが大統領になって以来、軍でも政府でも北部出身者ばかりが優遇されているという。

magw200704-nigeria02.jpg

ビアフラの独立を宣言したが志半ばで亡命を強いられたオジュク BETTMANN/GETTY IMAGES

現政権は和解に関心なし

「全てのイボ人の心に悲しみが刻まれている。南東部の人間なら誰だって(あの内戦で)家族や親戚を失っている」。そう言ったのは、当時オジュク中佐の参謀格だったクリストファー・イジョフォー。「戦時中に飢えて死んだ罪なき子供たちの血は今も報復を求めている」。自らの体験を回想録『ビアフラの生死を懸けた戦い』にまとめた老人は、筆者にこうも言った。「あんな戦い、そもそも起きるべきではなかった」

【関連記事】「物語はイズムを超える」翻訳家・くぼたのぞみと読み解くアフリカ文学の旗手・アディーチェ
【関連記事】殺人を強いられた元少女兵たちの消えない烙印

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

韓国中銀、予想通り金利据え置き ドットプロットは当

ビジネス

トヨタ、金融機関保有の政策株解消を計画 3兆円規模

ビジネス

もう一段利上げしつつ、物価目標の実現前提とした対話

ビジネス

豪企業設備投資、25年第4・四半期は10年超ぶり高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 2
    最高裁はなぜ「今回は」止めた?...トランプ関税を違憲とした「単純な理由」
  • 3
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 4
    3頭のクマがスキー客を猛追...ゲレンデで撮影された…
  • 5
    【クイズ】サメによる襲撃事件が最も多い国はどこ?
  • 6
    2月末に西の空で起こる珍しい天体現象とは? 「チャ…
  • 7
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 8
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 9
    「IKEAも動いた...」ネグレクトされた子猿パンチと「…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 10
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中