コロナ禍を上手く乗り切っているのはどの国か?49カ国ランキング
なお、「コロナ被害」と「経済被害」をそれぞれプロットしてみると、全体的に見ると、必ずしも「コロナ被害」と「経済被害」がトレードオフの関係になかった(図表3・4、トレードオフの関係にある場合は左上の第二象限と右下の第四象限にプロットされる)。現在入手できる情報からは、コロナ被害を抑えたからといって、経済損失が大きいわけでも、その逆に経済損失を抑えたからといってコロナ被害が大きいわけでもないことを示している。
こうしたトレードオフの関係が見られた国(経済を犠牲にして感染抑制を重視した国、後者は経済成長を重視し感染抑制を緩くしている国)は、例えば、足もとの新規感染者が最も少ないニュージーランド(8位)やタイ(4位)、フィンランド(16位)(コロナ被害が小さく、経済被害は大きい)やスウェーデン(41位)(コロナ被害は大きいが経済被害は小さい)など一部のみだった。ただし、経済被害を小さいとしているスウェーデンの場合でもランキング上位国よりはGDP損失が大きいため総合順位は低くなっている10。
ランキング上位国の特徴
ランキング上位国を見ると、台湾や香港など東南アジアの国が多いことが目立つ。アジアの国々がコロナ禍に上手く対応できている背景には、宗教などの文化や言語的な特性が影響している可能性11もあるが、ここではコロナ禍への初動対応について注目したい(図表5)。
オックスフォード大学が取りまとめている新型コロナへの対応状況(OxCGRT)によれば、コロナ禍への対応として、最も早い香港(3位)では昨年末から空港での監視を開始している。台湾(1位)も1月2日からコロナ禍への注意喚起を実施している12。日本(9位)でも1月7日から自己申告制での検疫体制を敷いており13、厳格な体制ではなかったが初動は早かった。中国との地理的な近さや新型コロナと同様に中国からアジアに拡大したといわれるSARSの経験もあり、東南アジアの国々では比較的早期から「謎の肺炎」に注意していたことがうかがえる。
中国の次に大きなクラスターが発生しニュースとなったイタリアでは初期感染者が確認されるかなり以前にウイルスが持ち込まれて拡大していたとも言われている。
東南アジア諸国の初動の早さが水際対策を効果的に働かせ、そもそも国内への輸入感染を抑制してきた可能性がある。
もちろん、初動対応が早くてもインドネシア(感染拡大率と致死率が高い)やシンガポール(人口当たりの感染者が多い)のように順位を落としている国もあるが14、当局のモニタリングと早期の対策が初期の感染拡大を抑え、その後の蔓延を低コストでコントロールできた可能性は高いと思われる。
一方で、封じ込め政策自体の厳しさ(図表5では丸印の大きさ)は今回のランキングとはほぼ相関がなかった。厳しい政策導入がコロナ禍抑制に効かないという意味ではないが、欧米などは大規模な感染が発覚した後、強固なロックダウンを実施したものの早期に対応を実施した東南アジアほど良い結果にならなかった15。
――――――――――
10 前述の通り「コロナ被害」と「経済被害」のバランスを重視している配点になっているため、こうしたトレードオフの関係にある国は順位が下がりやすいということも要因として挙げられる。またスウェーデンの場合は「経済」のウエイトが低いことも評価が下がった要因でもある。仮に、「コロナ被害」(平均点)と「経済被害」の合計で総合点を計算するとニュージーランドやタイは順位を落とし、スウェーデンは順位を上げる。
11 例えば、挨拶の際に人との接触が少ないことなどが感染防止に寄与しているなど。
12 香港については、https://www.info.gov.hk/gia/general/201912/31/P2019123100562.htm を参照。なお、台湾はOxCGRTでは1月2日からとしているが、CDCによる通知は12/31時点ですでに実施されている(https://www.cdc.gov.tw/Bulletin/Detail/zicpvVlBKj-UVeZ5yWBrLQ?typeid=9 )
13 日本の初期の対応としてはhttps://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08787.html など。
14 タイのようにOxCGRTでは初動対応が遅かったにも関わらず、コロナ禍を免れている国もあるが、メディアによればタイでは1月5日時点では検疫体制を強化していたと思われる(https://www.bangkokpost.com/thailand/general/1829219/arrivals-from-chinas-wuhan-scanned-for-pneumonia)。OxCGRTにおいて、こうした対応が考慮されていないだけの可能性もある。
15 震源地の中国では、強固なロックダウンでの封じ込めが奏功したと思われるが、他国では中国ほどの成果が上がらなかったと思われる。