最新記事

外国人労働者

一夫多妻制のパキスタンから第2夫人を......男性の願いに立ちはだかる日本の「重婚罪」

2020年7月28日(火)14時15分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

3.世界の大学事情

在留資格の申請をする際、学歴の説明をしなければならないときがある。「特定技能」ができる以前は、「技術・人文知識・国際業務」が、一般企業が利用できるほぼ唯一の就労資格であることは本編(『同僚は外国人。』)でも書いたとおりだ。この資格は大学卒が前提になる。日本の大学を卒業していればたいした問題も起こらないのだが、海外の学校を卒業している場合、稀に面倒なことになる。

世界中の国が同じような教育体制であればこんな苦労はないのだが、日本の6・3・3・4制というのは、世界的にみて必ずしも一般的ではない。例えば、ネパールの大学は3年制である。ただ、学位がバチェラー(学士)であれば無条件で大卒と判断される。

私は、旧ソ連の学位で苦労させられたことがある。日本語学校に通うロシア人の方の就職が決まり、「留学」から「技術・人文知識・国際業務」への変更手続きをすることになった。立派な卒業証書をお預かりした。ちなみに、入管へ提出する卒業証書は、オリジナルを申請時に提示し、オリジナルのコピーであることを確認してもらったうえでコピーを提出する。翻訳も一応つける。

彼の卒業した大学は、世界的にも著名な大学だった。彼がその大学を卒業した20年近く前は、旧ソビエト連邦の制度がまだ残っており、理科系の6年制大学を卒業すると「インジェニエール」という資格が与えられた。「インジェニエール」を翻訳すると「技師」となる。本来であれば「マスター」(修士)に相当するはずなので、その説明をもつけたのだが、入管から「学士を持っていることを証明しろ」という資料提出要請が来た。大学名から考えてもそんなことはありえないのだが、職業学校の学位と判断されたのだ。

そうなるとこの学位がマスターに相当することを法的に説明しなくてはならない。そこで本人に根拠法令を探しくれと依頼したところ、根拠法令を見つけてきて、そのロシア語を英語に翻訳してきた。そこでようやくわかったのだが、ロシア語の「インジェニエール」(技師)という単語は、英語に訳せばエンジニアだが、スペシャリストという意味にも使い、多くの大学がこの「スペシャリスト」という学位を付与していたのである。

そこでロシア大使館へ行き、「インジェニエール」は「スペシャリスト」であり、スペシャリストは修士に相当するという根拠条文の和訳を認証してもらって提出した。再提出から2週間、ようやく在留資格が下りた。その間、ご本人は不安なのだろう、毎日連絡をしてきた。ソ連崩壊から四半世紀もたって......亡霊に取り憑かれたような思いだった。

4.強制送還

強制送還とか国外退去という言葉を聞いたことがあるだろう。報道などではよく使われるが、強制送還も国外退去も入管行政には存在しない。近いのは「退去強制」であろう。「退去強制」とは、不法滞在など出入国管理法に違反したケースのほか、薬物、人身売買などの犯罪、テロリスト集団に所属している外国人、フーリガン、一定の犯罪で禁固、懲役の実刑を受けた外国人などに適用される。

言葉のイメージから、収容されて手錠をかけられ、空港まで連れて行かれて無理矢理に飛行機に乗せられるような様子を想像する人も多いが、実際には退去強制令書が発布されても、すぐに強引に飛行機に乗せられるわけでもなく、だいたい自ら自費で出国する。航空券を持っており、出国するに十分な費用を持っていれば、できるかぎり自費での出国を促す。そして、退去強制で出国した日から5年間は、上陸拒否事由に当たるため入国が制限される。

<関連記事:日本人が持つイメージより、はるかに優秀で勤勉な外国人労働者たちのリアル

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物は横ばい、米国の相互関税発表控え

ワールド

中国国有の東風汽車と長安汽車が経営統合協議=NYT

ワールド

米政権、「行政ミス」で移民送還 保護資格持つエルサ

ビジネス

AI導入企業、当初の混乱乗り切れば長期的な成功可能
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中