一夫多妻制のパキスタンから第2夫人を......男性の願いに立ちはだかる日本の「重婚罪」
一夫多妻制のパキスタンでは4人まで奥さんを持つことができる ali awais/iStock.
<外国人労働者の法律相談を請け負う行政書士が遭遇した、在留資格など日本の法律をめぐる悲喜こもごものエピソード>
浅草で行政書士事務所を経営し、おもに外国人の在留資格取得や起業支援をしている細井聡(大江戸国際行政書士事務所)は、これまで多くの外国人と関わってきた。その経験から細井は、「10年後、20年後、いや5年後かもしれない、『同僚は外国人』という時代がすぐそこまで来ている」と言う。
ここでは、細井が最近上梓した『同僚は外国人。10年後、ニッポンの職場はどう変わる!?』(CCCメディアハウス)向けに執筆したコラムのなかから、紙幅の都合で割愛された外交人労働者の在留資格をめぐるエピソードをいくつか紹介する。今回はその前編。
<未掲載エピソード紹介(後編):トランプ、ルペンよりもっと厳しい? 外国人の子供に国籍を与えない日本の「血統主義」>
1.一夫多妻制の国から
行政書士として外国人問題を扱っていると、様々な出会いをする。ある日電話で、奥さんを日本に連れてきたいという相談を受けた。ご本人は会社を経営しており、利益もそれなりに出ている。通常であればどうってことのない案件である。「それでは、事務所にお越しください」と伝えて電話を切った。
次の日、約束通りの時間にその方はやってきた。日本人の女性と一緒だった。「妻です」と、流暢な日本語で紹介された。私が混乱したのを察したのだろう。すぐに「母国にいる妻を日本に呼びたいのです」と説明があった。お国はパキスタンである。パキスタンでは4人まで奥さんが持てる。その奥さんを日本へ連れてきたい、というのが今回の相談だった。
この方は30年以上も前に、政治亡命のような形で日本にやってきた。そのときに支えてくれたのが、10歳以上年が離れた今の奥様だったのだ。だが、子どもができなかったため、日本人の奥さんは、「自分はもう60歳を超えているので無理だから、パキスタンで若い奥さんをもらって、子どもを作りなさい」と、第2夫人を持つことを薦めたという。
しかし、「配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない」と日本の民法は定めている(732条)。外国人であっても、日本国内に一歩足を踏み入れれば日本の法律が適用される。したがって、その第2夫人を配偶者として日本へ連れてくるためには、今の奥様と名実ともに離婚してもらうしかない。それをお伝えすると、日本人の奥さんはすぐに納得したのだが、決断できなかったのはご主人の方で、それから30分ほども涙が止まらなかった。「長い間なんでも相談して2人でやってきたのに......」
2. イスラム教徒について
なぜか私はイスラム教徒の方々と仕事をすることが多い。イスラム教というと、イスラム国とかアルカイダなど過激なイメージをお持ちの方も多いかもしれないが、少なくとも私にかぎってはほとんど嫌な思いをしたことがない。まず、ほとんど嘘をつかない。イスラム教では「嘘」が一番いけないと言われているからだろう、私は裏切られた経験がない。ただし、やるべきことを「やるやる」と言って、いつまでたってもやらないというのはある。「やる」と言ってやらないのだから、それも嘘かもしれないが、人を欺いたり利用したりするような話ではないので、あまり気にしないようにしている。
来日した彼らと、ときおり食事に行くことがある。ハラル料理というイスラム教の戒律にのっとった食事があるのはご存じだろう。だが、このハラルには随分差があるのだ。あるパキスタン人との食事のときには、「豚肉さえ食べなければいい」と言うので、近くのステーキ店に行って食事をした。その店には牛筋煮込みなどもあり、彼もぺろりと平らげていた。その後、エジプト人が来たので同じ店に連れて行ったところ、「この店の肉は祈りを捧げて殺しているのか」と訊く。もちろんそんなことはしていないので、「それは食べられない」ということになり、結局、寿司屋に行くことになった。
別のイスラム教徒に「寿司ならいいか?」と訊くと、「食べたことはないがいい」と言うので、寿司を食べさせたらひと口で吐き出してしまった。生のものは気持ち悪くて食べられなかったらしい。普段、火の通ったものしか食べていないので、無理だったようだ。結局、一番安全なのは焼鳥屋のようである。ただし、彼らはお酒を飲まないので、酒飲みの私としては物足りない食事になるのばかりはしかたがない。