最新記事

トラベル

コロナ後の旅行を再開する「トラベル・バブル」構想に死角あり

Welcome to a World of Bubbles

2020年6月13日(土)15時10分
ジェームズ・クラブトリー(国立シンガポール大学准教授)

magf200613_Travel2.jpg

渡航制限の緩和にはルールと情報の共有や互いの国の信頼が求められる KEVIN LAMARQUE-REUTERS

完全なトラベル・バブルの実現にはさらに複雑な取り決めが必要になるはずだ。バブルを導入したい国々は同レベルの疫学的条件からスタートしなければならないだろう。その上で共通のルールと広範囲のデータ共有で合意し、国ごとに異なる濃厚接触者追跡アプリを国民のプライバシーを侵害することなく相互に連携させる方法を考える必要がある。

さらに互いの国の医療システムを信頼し、ある国でアウトブレイクが起きても他の国に拡大する前に封じ込められると確信できなければならない。最後に、バブルは脆弱だ。新たなアウトブレイクが起きた場合の対応、国境再封鎖の場合に従うべきルールなど、計画どおりに事を運ぶのはオーストラリアやニュージーランドなど今のところ感染拡大を制御できている国同士でも難しい。オーストラリアとインドネシアのように感染状況が懸け離れている国同士ではほぼ不可能に思える。

新構想はより大きな地政学的現実も浮き彫りにする。とりわけ顕著なのが、中国、EU、アメリカなど超大国がルールを設定する影響力を持つ状況だ。

なかでも強いのが中国だ。中国経済が回復基調にある今、アジアの国々は広大な中国市場へのアクセスを求め、中国マネーと観光客の誘致再開に熱心だ。2国間の移動協定は既存の地政学的協定とは関係なく成立するだろう。中国は韓国との移動協定の一部を再開、日本ともじきに再開する可能性が高い。欧米で見られるようなコロナ禍後の反中ムードとはほとんど無縁の東南アジアでも、トラベル・バブルへの参加を持ち掛ければ関係強化につながるはずだ。

その結果、新たな中華圏が出現するだろう。中国を中心に、相互に移動可能なルートがクモの巣のように広がる。シンガポールなどから始まり、タイやマレーシアのように新型コロナの感染率が低い新興国に広がって、中国が商用航空便の再開を限定的に認めているドイツなど遠方の経済圏ともつながるだろう。

中国の中心性は、外交の武器になる。中国政府は既に、新型コロナの発生源や感染拡大について独立した調査を主張するオーストラリア政府に対し、貿易で報復している。

EUも、周辺地域の中心として似たような力を持つ。ギリシャが夏のオンシーズンを前に6月中旬から外国人観光客の受け入れ再開を決めるなど、国境管理は各国に委ねられているが、EUとしては、感染率の低い国から段階的に移動制限を解除するガイドラインを作成している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送-米ミネソタ州での移民取り締まり、停止申し立て

ワールド

移民取り締まり抗議デモ、米連邦政府は原則不介入へ=

ビジネス

アングル:中国「二線都市」が高級ブランドの最前線に

ワールド

焦点:トランプ氏のミサイル防衛構想、1年経ても進展
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」から生まれる
  • 4
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 5
    「着てない妻」をSNSに...ベッカム長男の豪遊投稿に…
  • 6
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタ…
  • 9
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 10
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 6
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 7
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 8
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 9
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 10
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中