最新記事

トラベル

コロナ後の旅行を再開する「トラベル・バブル」構想に死角あり

Welcome to a World of Bubbles

2020年6月13日(土)15時10分
ジェームズ・クラブトリー(国立シンガポール大学准教授)

最終的に加盟国と協力しながら、域外のどの国とどのような条件で移動制限を解除するか、ルールを策定するだろう。これは、大規模な地域ブロックの一員であることの価値を強調するものだ。イギリスなど域外の国々は、広大なEU市場へのアクセスを考えれば、そうしたルールに抵抗しようにも立場が弱い。

世界を3つの地域に区分

アメリカの周辺国も同じような状況に直面するかもしれない。アメリカは3月上旬にヨーロッパからの入国を禁止。カナダおよびメキシコとの国境も基本的に閉鎖されている。5月末にはブラジルからの渡航者の入国を禁止し、他の中南米諸国も国ごとに検討するとしている。

米国内の感染拡大と政府の失策の深刻さを考えれば、国境再開の交渉におけるドナルド・トランプ米大統領の立場は、中国のように感染を抑え込みつつある国に比べれば弱いだろう。とはいえ、米経済の規模と、観光などの分野での米市民の重要性は、特に中南米の近隣諸国では、依然としてかなりの重みがある。

トランプはアメリカへのアクセスを求める国に対して相互の再開を要求する可能性が高く、イギリスとフランスのように、さらなる外交論争のタネをまくことになりそうだ。

タイやベトナムなど一部の新興国は、イギリスやスペイン、アメリカよりはるかに効果的にパンデミックに対処している。これらの国は観光に依存しているが、欧米からの入国に慎重になるのは当然だろう。

もっとも、一般的に富裕国は今後数カ月で感染レベルが低下して管理が可能になると見られている。対照的に貧しい国々は大規模な検査体制がなく、新型コロナの抑制に成功している国との間で国境を再開することは、はるかに難しくなりそうだ。

地政学的なコネクションを持つ国々も例外ではない。中国の同盟国であるカンボジアとラオスは、当初は中国との往来を禁止しなかったが、3月中旬以降から入国制限を強化した。しかし今のところ、中国は渡航再開という「お返し」をしていない。両国の感染者数の公式発表が信頼できず、再開が新たな感染拡大につながるリスクを恐れているのだろう。

これらを踏まえて、世界は大きくレッド、オレンジ、グリーンのゾーンに色分けされるのではないか。

新型コロナを基本的に抑制し、将来のアウトブレイクの管理体制が十分に機能している「グリーン」の国々の間では、トラベル・バブルが最も効果的に機能する。「オレンジ」には、イギリスのようにウイルスを抑制できていない先進国や、タイのように対応がよりうまくいっている新興国が含まれる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米エヌビディア、ノキアに10億ドル投資 AIネット

ビジネス

米UPSの7─9月期、減収減益も予想上回る コスト

ワールド

イスラエル首相、ガザ地区へ即時攻撃を軍に命令

ワールド

トランプ氏3期目「道筋見えず」、憲法改正は時間不足
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持と認知症リスク低下の可能性、英研究
  • 4
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 5
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 6
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 7
    「何これ?...」家の天井から生えてきた「奇妙な塊」…
  • 8
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 9
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 10
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 7
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中