日本人は本当の「休み方」を知らない──変われないのはなぜか
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しかも、今後は人工知能(AI)の活用によりアイデアが勝負の世界になっていく。立命館アジア太平洋大学の出口治明学長も、休みがもたらす経験と学びの重要性を説く。
「脳科学者たちは1回の集中は2時間が限度だと言っている。そういう事実を無視するから、日本は長時間労働の割に1%も経済成長していない」と出口は言う。「世界でユニコーン(非上場で10億ドル以上の企業価値があるベンチャー企業)が400社近くもあるのに、日本には3社だけ。日本人はもっと早く仕事を切り上げ、人に会い、本を読み、旅をするべき。一人一人が職場以外で経験を広げ、学ばないと日本は滅びる」
もっとも、働き方改革が進んだ背景にはより切実な問題もある。
日本は人口減少、少子高齢化により15~64歳の生産年齢人口が減少の一途をたどる。2019年に総務省が発表した人口推計によると、2018年10月の生産年齢人口の割合は59.7%で過去最低となり、働き手不足が着実に進んでいる。これまでの「男性正社員の夫+専業主婦または非正規雇用の妻」というパターンは既に崩れており、高齢者の就労促進や女性の社会進出、外国人人材の受け入れを進めるしか日本に残された道はない。
そして多様な人材を確保するためには、それぞれの状況に応じた柔軟な働き方・休み方を許容することが求められる。それは何も出産、介護を担う人だけに限らない。2人に1人が癌になると言われる時代、闘病しながら働く人もそこに含まれる。
売り手市場と言われている昨今の就職戦線で、学生たちの視線も厳しい。優秀な人材は条件のよりよい職場に流れる。近年、日本の企業が「働き方・休み方改革」に力を入れるのにはこうした事情もある。
早稲田大学の小倉が注目する企業の1つは、福岡県に本社がある建設機材レンタル・リース業の拓新産業だ。従業員60人程度の中小企業だが、有休消化率100%、残業時間は年間合計で1人2時間、休日出勤ゼロという驚異的な数字を出している。約30年前、会社説明会に学生がほとんど来なかったことで当時の会長が危機感を抱き、いち早く働き方改革に踏み切った。
今では優良企業としてあちこちで表彰され、九州の優秀な学生が殺到する。「優秀な人材が集まるから業績も右肩上がり。中小企業だからできない、下請けだからできないというのは言い訳だ」と、小倉は言う。
しかしいくら休みの大切さが分かっていても、「休めない」「休ませられない」のが現実だ。目の前にはやるべき業務がある。休みたくても休めないという人が大半だろう。
なぜ日本はなかなか変われないのか。その疑問を解くために、日本型雇用システムの歴史をひもとく。
安定した雇用と引き換えに
日本型雇用システムの特徴は「長期雇用」と「賃金の年功序列制」と言われる。しかし労働政策研究・研修機構研究所長の濱口桂一郎は、最も重要なポイントは「雇用契約の性質」だと指摘する。
「日本の雇用契約書には職務がはっきり書かれていない。いわば契約書は『空白の石板』。雇用者が命じたことが仕事になる」と濱口。「さらに、時間も場所も無限定。つまり言われた場所で言われたことをやるという前提で雇用する。これがいわゆる『メンバーシップ型』だ」