最新記事

日本人が知らない 休み方・休ませ方

日本人は本当の「休み方」を知らない──変われないのはなぜか

HOW WILL THE VIRUS CHANGE WORK?

2020年5月14日(木)10時40分
宇佐美里圭、森田優介(本誌記者)

ILLUSTRATION BY STUDIOSTOKS/SHUTTERSTOCK

<働き方改革が進むなかコロナ禍で在宅勤務が拡大──「働く」と「休む」の境界線が問われている。本誌4月21日号「日本人が知らない 休み方・休ませ方」特集より>

イタリア出身で在日15年になる女性(39)は、日本の大学院を卒業後、日本の翻訳会社に就職した。主な業務は、日本の企業が発注する技術翻訳の下請け。この業界はクライアントの力が強く、厳しい条件を突き付けられても引き受けざるを得ないことが多い。結果、残業も土日出勤も日常茶飯事。夜は9時に退社できればいいほうで、家に仕事を持ち帰ることも当たり前だった。
20200421issue_cover200.jpg
10年間勤めたが、その間イタリアに帰れたのはたった2回。とてもじゃないが、長期休暇を取れる雰囲気ではなかった。

「仕事が好きだったし、同僚にも恵まれてやりがいもあった」と、彼女は言う。「でも、部下を持つようになったら仕事量が一気に増えて、体力の限界を感じた」

1年ほど前に外資系の翻訳会社に転職。仕事内容は似ていても、労務管理がしっかりしており、1年目にして年次有給休暇は15日間消化することができた。有休は100%消化して当然という雰囲気があるという。

日本企業は非生産的、日本人は働き過ぎ──私たちは耳にたこができるほどそう聞かされてきた。働き方改革関連法の施行から今年4月で1年。1年の猶予期間を設けられていた中小企業にも本格施行されるようになったが、日本の労働環境は「改革」が進んでいるだろうか。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、今は働くどころではなく、休業に追い込まれている人もたくさんいるだろう。ほんの数カ月前まで名前さえ聞いたこともなかったウイルスが、働き方にも別の形で「変革」を迫ってきていると言える。その一つが、リモートワークの拡大だ。

しかし、それも現状では心もとない。インド生まれで、東京の外資系企業に勤める女性(36)は最近、社内で「メールハラスメント」が問題になったと語る。夜中に上司からメールが来て、スマホのアラートが鳴る。寝ていても早く返事しなければならないプレッシャーにさらされた社員が会社に訴え、平日の夜10時以降と週末はメールが禁止になったという。同社は外資系だが社員の90%以上が日本人。その部署の上司次第だが、働き方は日本企業色が強い。

「テクノロジーのおかげで家で仕事ができるようになったが、日本の場合はそれが逆効果になっている」と彼女は言う。「実際の労働時間は何時までなのだろうと思ってしまう」

コロナ禍によるリモートワークの拡大で、いま改めて「働く」と「休む」の境界線が問われている。

知らないうちに有休を消化

まず、日本人の休暇の実態を把握したい。国別の年間休日数は2016年の厚生労働省のデータによると、日本は138.2日。イギリス、フランスは137日、イタリアは139日、ドイツは141日だった。年間休日数を見る限り、意外と日本も欧米並みに休んでいる。

しかし、大きく違うのはその内訳だ。年間休日数のうち、日本は有給休暇が18.2日なのに対し、イギリス、フランス、イタリアは25日、ドイツは30日。その代わり、日本の土日以外の休日は16日、イギリスとフランスは8日、ドイツは7日、イタリアは10日だ。つまり、日本は一斉に休む祝日が「休日」の大半であり、自由に休める休暇は少ない。

magSR200513_figure2.jpg

本誌2020年4月21日号22ページより

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、加・メキシコ首脳と貿易巡り会談 W杯抽

ワールド

プーチン氏と米特使の会談「真に友好的」=ロシア大統

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

米国株式市場=小幅高、利下げ期待で ネトフリの買収
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中