最新記事

日本人が知らない 休み方・休ませ方

日本人は本当の「休み方」を知らない──変われないのはなぜか

HOW WILL THE VIRUS CHANGE WORK?

2020年5月14日(木)10時40分
宇佐美里圭、森田優介(本誌記者)

magSR200513_work3.jpg

ILLUSTRATION BY STUDIOSTOKS/SHUTTERSTOCK

対して、欧米型の雇用は「ジョブ型」と呼ばれる。まず仕事ありきで、それに対して人を雇う。最初に契約書があり、そこに職務内容、労働時間、賃金などが記載されており、契約外の業務や命令は拒否できる。

濱口によれば、実はメンバーシップ型の雇用システムは世界広しといえども日本だけ。しかし、もとはどちらも「労働者を守る」ために生まれたものだった。

どういうことか。時は18世紀後半の産業革命以降にさかのぼる。当時は製造業の時代で、働けば働くほど儲かった。そのため経営者は労働者に長時間労働を強い、賃金も一方的に決めていた。それに対し、労働者が人権や労働環境の改善を求めて立ち上がった過程で、欧米では職務を明確化し、勝手に職務内容や賃金を変えさせないジョブ型へ動いた。

一方日本は、1947年に労働基準法が成立したときに、労働組合が雇用保障と引き換えに「労働者はなんでもやる」というメンバーシップ型を志向したという。

メンバーシップ型のメリットは、なんでもやるからこそ、仕事がなくなっても従業員を他のポジションに動かせること。それにより長期雇用が可能になる。デメリットは「無限定」という条件に対応できない人は非正規労働者になること。また職務がはっきりしていないため、職務で賃金を決めることはできず、そのために年功賃金制が生まれた。唯一客観的な根拠は年齢だからだ。

賃金が年功制である代償として登場したのが「査定」だ。濱口によると、役付きでない労働者が査定されるのは日本くらいだという。大抵の国では給料は契約時に決められ、その後上下するものではないのだ。

「この査定というのが曲者。能力評価と言われるが、能力とはつまり上司が『できると思うかどうか』。情意評価でありブラックボックスだ。これが日本の悪しき長時間労働と有休取得の低さを生み出してきた」

定時で帰る人と夜中まで働く人、日本でどちらが評価されやすいかといえば、もちろん残業する人だろう。有休を取って休む人と熱があっても出社する人では、当然後者。つまり、評価と賃金を上げたい労働者が取る合理的な行動は、可能な限り残業し休まないこと、という結果になる。

年功制の代償として査定制度が組み込まれ、その結果、今の日本の労働状況がある。全てつながっているが故に、どれか1つだけを取り出して変えるのは容易ではない。

一方、少し視点を変えてみると、日本の長時間労働には雇用制度の成り立ち以外にも理由がありそうだ。ドイツ日本研究所所長のフランツ・ヴァルデンベルガーは、日本人が休めない原因には、日本独特の習慣と時間に対する価値観もあるのではないかと推測する。

「例えば、日本人は中学校に入ると部活動が始まり、(夏休みなどで)授業がなくても学校へ行くようになる。そうなると自由時間が失われる。朝から晩までスケジュールが決まっていて、空いた時間に『何をしよう?』と考えなくなる」と、ヴァルデンベルガーは言う。「日本人は自分の時間の使い方を学校や両親、組織など周りに委ねる傾向がある」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ政権、対中テック規制を棚上げ 米中首脳会談

ビジネス

仏サノフィ、ハドソンCEOを解任 後任に独メルクの

ビジネス

英GDP、第4四半期は前期比0.1%増 通年は1.

ビジネス

〔情報BOX〕主要企業の想定為替レート一覧
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    一体なぜ? 中国でハリー・ポッターの「あの悪役」が…
  • 6
    【独自取材】「氷上のシルクロード」を目指す中国、…
  • 7
    あなたの隣に「軍事用ヒト型ロボット」が来る日
  • 8
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 10
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中