最新記事

新型コロナウイルス

「検査と隔離」もウイルス第2波は止められない 米専門家

Contact Tracing Won't Solve the Coronavirus Crisis: Epidemiologist

2020年5月26日(火)18時15分
フレッド・グタール(本誌サイエンス担当)

この夏どこまで健康リスクを取るかは個人の覚悟次第、とオスターホルムは警告する Ca-ssis/iStock

<呼吸器を冒す病原体は数カ月~数年は止まらないと、疫学の第一人者でミネソタ大学感染症研究・政策センターのオスターホルム所長に聞くパンデミックの次なる段階>

夏の訪れを知らせるメモリアルデー(戦没者記念日)の休日、「日常」に戻りたいというアメリカ人の想いはピークに達した。米国内各地では新型コロナウイルス対策の様々な制限が緩和され始め、メイン州ではキャンプ場の営業再開が許可された。ニューヨーク市はビーチの開放を検討中で、フロリダ州では青少年の活動全般を解禁した。

アメリカをはじめ各国は、アフター・コロナの新しく不確実な段階に突入しつつある。厳しいソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保戦略)が導入されたことで、ニューヨークやイタリア、イギリスなど感染拡大が最も深刻だった地域では、新たな感染者の数は何とか抑え込んだ。今後の課題は、再び感染爆発が起来て医療システムが崩壊するのを防ぎつつ、いかにして人々の暮らしと精神面の健康を守っていくか、ということだ。

ところが、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)で疲弊しきった国の活動をどうやって再開していくかについての「総意」は、まだどこにも存在しない。政治家と公衆衛生の専門家たちの考え方は違う。専門家の中でも、際立った2つ意見が対立している。一方は、感染者と接触した可能性がある全ての人を追跡し、14日間の自主隔離を求めるという大規模な接触追跡(コンタクト・トレーシング)を行うべきだという。もう一方は、接触追跡では現実的にウイルスを止めるのは難しいという。アメリカのように、他人に詮索されたり指図を受けたりするのを嫌う人が多い国ではとくに難しい、というのだ(実際、アメリカではまだ絶対にマスクはしないと抵抗する人々もいる)。

<参考記事>マスク着用を拒否する、銃社会アメリカの西部劇カルチャー

政府の責任から個人責任へ

新型コロナウイルスから国民の身を守るのは、これまで「政府責任」だった。だがウイルス対策の各種制限が緩和され、経済活動が再開されるこれからは、ウイルスから身を守るのもいわば「個人責任」だ。われわれはウイルス対策について何の確証ももたないまま、新たな段階に足を踏み入れようとしている。

アメリカでは、COVID-19で死亡するリスクが高い高齢もしくは基礎疾患がある国民が全体の約40%にのぼる。彼らやその近親者が、自らどこまで感染リスクを冒す覚悟なのか、今年の夏はその判断が問われることになるだろう。

ミネソタ大学感染症研究・政策センター所長で疫学の第一人者のオスターホルムはこう語る。「飲酒運転にたとえるなら、取り締まりは政府がやるべきだ。だが私たち国民の側にも、自分の行動に責任を持ち、酒を飲んだら運転しないようにする責務はある」

オスターホルムは、新型コロナウイルスがパンデミック(世界的大流行)を引き起こし、都市部に最も大きな打撃をもたらすだろうと、早い段階から警鐘を鳴らしていた。だがこの先は、きわめて不透明な要素が多いと言う。新型コロナウイルスは、一般的な風邪を引き起こすのと同じコロナウイルスの一種だが、今回のパンデミックを見ていると、急速に感染拡大し、発症すると急激に症状のピークを迎えるなど、特徴がインフルエンザに近い。夏に向けて、このウイルスがどのような特徴を見せるのかは誰にもわからない。

<参考記事>ニューヨークと東京では「医療崩壊」の実態が全く違う

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ、6月の英販売台数は前年比12%増=調査

ワールド

豪家計支出、5月は前月比+0.9% 消費回復

ワールド

常に必要な連絡体制を保持し協議進める=参院選中の日

ワールド

中国、太平洋島しょ地域で基地建設望まず 在フィジー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 5
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 6
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中