2メートルでは防げない、咳でできる飛沫の雲
Coughs Appear to Spread Saliva 19ft: Study
「どういう条件の下で感染が起きるかを理解するためには、さらなる研究が必要だ」と、ドリカキスは続けた。
たとえば、飛沫が発生した時点での大きさと、さまざまな環境条件下での飛沫の蒸発速度の変化などを明らかにする必要がある。
「呼吸器疾患のある患者の激しい咳は、飛沫の生成と気道表面上の液体の分泌に影響を与え、咳の頻度を高める。これらの要因はさらに定量化して調査する必要がある」と、ドリカキスは説明する。 「さらに、感染が起きる曝露の量と時間はまだわかっていない。それは人によって異なるかもしれない」
英レディング大学のサイモン・クラーク准教授(細胞微生物学)は、この研究に参加していないが、こう述べている。「咳からの飛沫が2メートル以上移動する可能性があることはすでに知られている。だが、この新しい研究は、飛沫が空気中を移動する際の物理的メカニズムをより深く理解する洞察を与えてくれる」
「この研究によって確認できるのは、2メートルの対人距離ルールは、完全に感染を免れる方法ではなく、感染リスク減らすために人から離れる距離として妥当だから推奨されているということだ。2メートルは1メートルよりも安全で、10メートルまたは100メートル離れればなおいい。とはいえ、身を守る効果は離れた距離に比例するわけではない」
「この論文からくみ取るべき最も重要な点は、社会的距離に関するガイドラインを変更する必要があるということではない。むしろ、咳がどれほどウイルスを運ぶ飛沫を拡散させるかを理解することだ。咳が出るなら、治るまで家で待機したほうがいい。そして外出中に突然咳が出たら、口元を肘にあてて咳をすること。そして自宅に帰ってそこで待機するべきだ」と、クラークは力説する。
屋外でのリスクは計測困難
英レスター大学のジュリアン・タン准教授(呼吸学)は、「研究結果はそれほど意外ではない。風の向きによっては、吐き出す呼吸(呼吸、会話、咳、笑い、歌など)に伴って口から出た飛沫が他の人に到達する可能性がある」と語る。
「しかし、実際には、特に屋外では、その過程で飛沫は大幅に希釈されるため、どれだけの量のウイルスを、どれだけの量の飛沫が運ぶかは、場合によって変わってくるだろう」
「希釈係数が十分に大きければ、他人に到達するウイルスの実際の数は、感染や症状を引き起こすほど多くはないかもしれない。でも今回の研究は、2メートル離れるだけでは感染を完全に防ぐことはできないことを示しつつ、1メートル以上、あるいはまったく離れていなくても感染しない可能性があることを明らかにしている」と、タンは言う。
「感染リスクを一発で減らす決め手はないことに注意してほしい。マスクをすること、社会的距離をとること、ロックダウンといったひとつひとつの取り組みが、結局は、集団の感染を抑えることにつながる」
(翻訳:栗原紀子)
2020年5月26日号(5月19日発売)は「コロナ特効薬を探せ」特集。世界で30万人の命を奪った新型コロナウイルス。この闘いを制する治療薬とワクチン開発の最前線をルポ。 PLUS レムデジビル、アビガン、カレトラ......コロナに効く既存薬は?