2メートルでは防げない、咳でできる飛沫の雲
Coughs Appear to Spread Saliva 19ft: Study
咳の飛沫は思いがけないところまで飛んでいく可能性もある DuxX/iStock
<咳についての新しい研究で、現在推奨されている2メートルの対人距離では安心できないことがわかってきた>
新型コロナウイルス対策として、現在は2メートルの対人距離をとることが推奨されている。だがウイルスなどの病原体を運ぶ可能性がある唾液の飛沫から身を守るうえで、果たして十分な距離といえるのだろうか──こうした疑いを裏付ける研究が発表された。
キプロスにあるニコシア大学の研究者は、咳と唾液に関する既存のデータを使用して、さまざまな条件下で唾液の飛沫が空気中をどのように移動するか、コンピューターでシミュレーションした。
科学誌「液体の物理学」に掲載されたこの研究によれば、人が咳やくしゃみをすると、唾液は飛沫となり、次に湿気をふくんだ温かいガスの雲のようなものになるという。
この実験モデルでは、野外の環境における風速、飛沫の大きさ、咳をしたときの人の口の形、咳の強さ、継続時間などの要素を計算に入れた。唾液の温度、人間の口内と外気の温度、そして相対湿度も考慮された。
コンピューターのモデルによって、風速毎時4〜15キロの環境下で、唾液の飛沫は最大約6メートル飛ぶことがわかった。空気中の飛沫の濃度とサイズは、風下では減少するように見えた。
こうした唾液の動きからすると、飛沫の雲の影響は、その場にいる人の身長によって異なる可能性がある。この論文によれば、「飛沫の雲は落下するため、その軌道内にいる背の低い大人と子供は感染のリスクが比較的高くなるかもしれない」という。
<参考記事>「咳やくしゃみの飛沫は4メートル飛び、45分間、空中に留まる」との研究結果
飛沫の雲の状態に注目
さらに、このモデルでは、風速が高いときよりも、風速が低いときのほうが、飛沫の雲が小さくなるスピードが遅くなった。この現象は、飛沫の雲の近くにいる人は、長時間飛沫にさらされることを意味するかもしれない。
「この研究結果から、環境条件によっては、2メートルの対人距離は感染防止に十分とはいえない可能性があることがわかった」と、論文は述べている。
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)対策としてこの研究はどう活用できるのか。
「野外では、風速と環境条件によっては、空気中の飛沫が社会的距離として推奨されている2メートルをはるかに超える空間まで漂うことがわかった。この発見は重要であり、市民も政策立案者も、留意する必要がある」と、論文の共同執筆者であるニコシア大学理工学部および医学部のディミトリス・ドリカキス教授は本誌に語った。
「人がウイルスを運ぶ飛沫の雲のなかに入った場合、どれだけの量にどれだけ曝露したかで感染のリスクは変わってくると思われる。したがって、長い距離をとっているのに感染する可能性があるのはどういう状況か、よりよく理解することが重要だ。この研究は、こうした理解を深める役に立つ」