最新記事

医療崩壊

新型コロナ:ECMOの数より、扱える専門医が足りないという日本の現実

LAST DOCTOR STANDING

2020年4月18日(土)21時00分
小暮聡子(本誌記者)

――今後すぐに、使える医療従事者を増やすことは可能なのか。

増やそうとはしているが、現実問題、難しいと思う。まずは、機械に習熟することが必要だ。日本で使える装置には3、4種類あるので、それぞれの特徴やメリット・デメリットを理解し、機械に慣れつつ、上手な管理ができるようにしなければならない。

1つの機械を使って20例、30例、40例と経験しないと使いこなすことはできない。これまで日本ではECMOを導入する症例は、恐らく1つの病院で年間に2例や3例しかなかった。呼吸のECMOに関しては1年間で経験できる症例が2例や3例なので、10年やっても20例や30例しか経験できない。

そうするとラーニングカーブ(習熟曲線)が非常に緩やかになってしまって、厳しい話をするが、ECMOを専門として名乗り始めるには10年も20年もかかってしまう。それなので、私はイギリスに行って1年間で80例を扱ってきた。

――日本は国外に比べて、ECMOを使える状況が整っていないということか。

とてつもなく遅れていると思う。まず日本では、機械のほうが先にばらまかれてしまった。どの病院でもECMOを購入し、誰でもいじることができる状態になった。

そういった状況で約10年前の2009年に新型インフルエンザのパンデミックが起き、日本でもECMOを使って治療したのだが、ECMO治療をしたなかでの救命率は36%だった。

一方で、人口6700万人のイギリスはECMOで治療する施設を国内6施設に限っていた。つまり、センター化していた。

ECMOセンターと言われる6カ所の病院を選定して、そこでやってくださいと。インフルエンザで呼吸不全の重症患者は全て6カ所に集めて、ECMOの症例をたくさん経験させ、慣れた人たちに多くこなしてもらうことにした。

国策としてそういうやり方を採っているイギリスでは、新型インフルエンザの(ECMOを使って治療した患者群の)救命率は72%だ。日本の倍だった。

――コロナ患者が、人工呼吸器からECMOが必要な状態に変わるというのはどういう段階なのか。

まず人工呼吸器とECMOの違いだが、人工呼吸器による治療というのは、肺炎など、傷んだ肺をなんとか使いながら、機械のサポートを受けつつ呼吸をさせるという治療だ。

つまり、酸素と二酸化炭素を取り込むのは患者さん自身の肺がやる。肺は傷んではいるが、まだ使えるのでがんばって、とサポートするのが人工呼吸器。

ECMOは全く違っていて、血液を体の外に取り出して、「人工肺」と言われる機械の肺の中で酸素と二酸化炭素の交換を行って、酸素化された血液を体の中に戻すという治療だ。

よく、「究極のラング(肺)・レスト(休息)治療」と言われるのだが、肺を休める治療、肺をまったく使わせないという治療法だ。例えば、筋肉痛で筋肉が痛いときは運動しないのと同じで、傷んだ肺を休めて、回復するのを待つ。

人工呼吸器からECMOが必要な状態に変わるタイミングとは、患者さんの肺がこれ以上だめになっては困るというときだ。自分の肺を使いつつ、人工呼吸器のサポートを得ながらであっても酸素が取り込まれなくなったら、ECMOの適用になる。

一方で、ここが難しいのだが、傷んだ肺を人工呼吸器で使い続けていると、肺はどんどんだめになっていく。そういう状態になってからECMOを導入しても、肺はもう治らない。

なので、肺が痛み切ってだめになる前にECMOを入れる必要があって、そのタイミングを判断し決断できるのが、ECMOの専門医だ。それはやはり、数をこなしていないと難しい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動

ビジネス

英小売売上高、10月は前月比-0.7% 予算案発表

ワールド

中国、日本人の短期ビザ免除を再開 林官房長官「交流

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中