最新記事

世界経済

ポスト・コロナの世界経済はこうなる──著名エコノミスト9人が語る

The Post-Pandemic Economy

2020年4月23日(木)15時30分
ジョセフ・スティグリッツ(ノーベル賞経済学者)ほか

政府の財政政策は、政治的な調整に時間がかかる上、最も必要な部門に確実に資金を注入できるとは限らない。

かつては保守的な「通貨の番人」だった中銀も、2008年以降は迅速かつ大胆、創造的な手法で経済を救うようになった。各国政府は足並みがそろいにくいが、協調行動を取りやすいのが中銀の強みだ。

今も、そして今後も長期にわたり、中銀が経済と金融の総崩れを防ぐ最前線の、そして最も強力な要塞となるだろう。とはいえ中銀が新たに背負うことになったこの重大な任務と、それに伴う非現実的な期待にどこまで耐えられるかは誰にも予想できない。

リスク回避すれば景気停滞は悪化する

アダム・トゥーズ(コロンビア大学歴史学教授)

ロックダウン(都市封鎖)開始直後、世界は新型コロナ危機を第1次大戦や世界恐慌、太平洋戦争などになぞらえた。それが一段落して際立ってきたのは今回の危機の新奇さだ。コロナ危機特有の全く新しい何か、それが恐ろしい。

この危機の経済的影響は予測し難い。多くの国がかつてない深刻かつ強烈な打撃を受けている。ネットショップとの熾烈な競争に直面している小売業などでは一時的なロックダウンが致命的になりかねない。多くの店が営業を再開せず、その分の雇用は永久に失われるだろう。何千万人、何億人もの労働者や小規模経営者とその家族が悲惨な状況に置かれている。ロックダウンが長引けば、経済的打撃は深刻化し、景気回復は遅れる。

経済と金融に関する「常識」が根底から揺さぶられている。2008年の金融危機以降、極度の不確実性を認める必要性が盛んに論じられてきた。その極度の不確実性を私たちは今まさに目の当たりにしている。

第2次大戦以来最大の協調的な金融対策が講じられてはいるが、第1弾だけでは明らかに不十分だ。各国の中央銀行は確かに前例のない離れ業に踏み切っている。だが累積債務に対処するには、インフレや組織的な公的債務のデフォルトといった荒療治もあることを歴史は示唆している。

企業や家庭が経済的リスクを回避し無難な道を選べば、景気停滞を悪化させることになる。累積債務対策として緊縮に走れば問題は深刻化するだろう。行動力と明確なビジョンを持つ政権による危機打開策を求めるのはもっともだ。だが打開策がどのような形を取るか、主導権を握るのはどんな政治的勢力かが重要なのは言うまでもない。

失われた雇用の多くは二度と戻らない

ローラ・タイソン(カリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクール教授)

今回のパンデミックとその後の景気回復は、仕事のデジタル化とオートメーション化を加速させるはずだ。この傾向は過去20年、中程度のスキルの仕事を侵食する一方、高スキルの仕事を増加させ、平均賃金の停滞と所得格差の拡大に寄与してきた。

パンデミックによる経済的混乱で需要の変化も加速しており、今後GDPの構成が変わるだろう。サービス業のシェアは引き続き拡大するが、小売り、旅行、教育、医療、および公的部門の対面型サービスのシェアはデジタル化に伴って縮小するはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:社会の「自由化」進むイラン、水面下で反体制派

ワールド

アングル:ルーブルの盗品を追え、「ダイヤモンドの街

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円で横ばい 米指標再開とFR

ビジネス

米、対スイス関税15%に引き下げ 2000億ドルの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 6
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 9
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中