ポスト・コロナの世界経済はこうなる──著名エコノミスト9人が語る
The Post-Pandemic Economy
景気回復後も、多くの低賃金・低スキルの対面型サービス業、特に小企業は復活しないだろう。だが警察、消防、医療、物流、公共交通機関、食品など必要不可欠なサービスの労働者の需要は拡大し、新たな雇用機会が創出され、従来は低賃金だったこれらの部門で賃上げと福利厚生の向上を求める圧力が強まる。
パートタイムや単発の仕事、複数の企業で仕事をするといった非正規や不安定な雇用の伸びが加速する。その結果、雇用主の定義は拡大し、より柔軟な福利厚生システムが生まれるだろう。例えば、新たな仕事に必要なスキルの習得のため、低コストの研修プログラムをデジタルで提供する必要がある。
テレワークへの移行の急増が示すように、経済のデジタル化を加速させるには、Wi-Fiやブロードバンドなど、通信インフラの大規模かつ包括的な拡大が必要だ。
グローバル化の中心はアメリカから中国に
■キショール・マブバニ(国立シンガポール大学フェロー)
新型コロナのパンデミックはアメリカ中心のグローバル経済から中国中心のグローバル経済への移行を加速させる。
なぜ今後も加速が続くのか。アメリカ人はグローバル化と国際貿易を信頼しなくなった。ドナルド・トランプが大統領であろうとなかろうと、自由貿易協定は有害なのだ。一方、中国はグローバル化と国際貿易への信頼を失っていない。それには歴史的な理由がある。
1842年にイギリスとのアヘン戦争に敗れてから1949年の中華人民共和国建国までの「屈辱の世紀」は、指導者のおごりと、世界と隔絶しようとした無駄な努力が招いたものであり、過去数十年の経済的復活はグローバルな関与の成果だった。現在の指導者たちはそれを承知している。自国の文化に対する国民の自信も劇的に増している。
従ってアメリカの選択肢は2つある。世界的優位性の維持が目的なら、政治も経済も中国との地政学的なゼロサムゲームに身を投じざるを得ない。一方、自国民の幸福度の向上を目指すなら中国と協調すべきだ。反中ムードが蔓延するなか、そんな賢明な助言は分が悪そうだが。
<本誌2020年4月28日号掲載>
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2020年4月28日号(4月21日発売)は「日本に迫る医療崩壊」特集。コロナ禍の欧州で起きた医療システムの崩壊を、感染者数の急増する日本が避ける方法は? ほか「ポスト・コロナの世界経済はこうなる」など新型コロナ関連記事も多数掲載。