最新記事

世界経済

ポスト・コロナの世界経済はこうなる──著名エコノミスト9人が語る

The Post-Pandemic Economy

2020年4月23日(木)15時30分
ジョセフ・スティグリッツ(ノーベル賞経済学者)ほか

景気回復後も、多くの低賃金・低スキルの対面型サービス業、特に小企業は復活しないだろう。だが警察、消防、医療、物流、公共交通機関、食品など必要不可欠なサービスの労働者の需要は拡大し、新たな雇用機会が創出され、従来は低賃金だったこれらの部門で賃上げと福利厚生の向上を求める圧力が強まる。

パートタイムや単発の仕事、複数の企業で仕事をするといった非正規や不安定な雇用の伸びが加速する。その結果、雇用主の定義は拡大し、より柔軟な福利厚生システムが生まれるだろう。例えば、新たな仕事に必要なスキルの習得のため、低コストの研修プログラムをデジタルで提供する必要がある。

テレワークへの移行の急増が示すように、経済のデジタル化を加速させるには、Wi-Fiやブロードバンドなど、通信インフラの大規模かつ包括的な拡大が必要だ。

グローバル化の中心はアメリカから中国に

キショール・マブバニ(国立シンガポール大学フェロー)

新型コロナのパンデミックはアメリカ中心のグローバル経済から中国中心のグローバル経済への移行を加速させる。

なぜ今後も加速が続くのか。アメリカ人はグローバル化と国際貿易を信頼しなくなった。ドナルド・トランプが大統領であろうとなかろうと、自由貿易協定は有害なのだ。一方、中国はグローバル化と国際貿易への信頼を失っていない。それには歴史的な理由がある。

1842年にイギリスとのアヘン戦争に敗れてから1949年の中華人民共和国建国までの「屈辱の世紀」は、指導者のおごりと、世界と隔絶しようとした無駄な努力が招いたものであり、過去数十年の経済的復活はグローバルな関与の成果だった。現在の指導者たちはそれを承知している。自国の文化に対する国民の自信も劇的に増している。

従ってアメリカの選択肢は2つある。世界的優位性の維持が目的なら、政治も経済も中国との地政学的なゼロサムゲームに身を投じざるを得ない。一方、自国民の幸福度の向上を目指すなら中国と協調すべきだ。反中ムードが蔓延するなか、そんな賢明な助言は分が悪そうだが。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2020年4月28日号掲載>

【参考記事】コロナショックの経済危機はリーマン超え
【参考記事】コロナショックで加速する経済の大再編──日本と世界はどう変わるのか

20200428issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月28日号(4月21日発売)は「日本に迫る医療崩壊」特集。コロナ禍の欧州で起きた医療システムの崩壊を、感染者数の急増する日本が避ける方法は? ほか「ポスト・コロナの世界経済はこうなる」など新型コロナ関連記事も多数掲載。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 8
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中