最新記事

日本社会

新型コロナウイルスがあぶり出す日本の危機 自粛ムードまとう「同調圧力」の危険性

2020年3月27日(金)17時00分
真鍋 厚(評論家、著述家) *東洋経済オンラインからの転載

現在、「巣ごもり」によるメンタルヘルスへの影響が世界各国で懸念されているが、「自律性と個性」の危機が作り出す不満と嫉妬のスパイラルにも注意が必要だ。

だからこそ軽はずみな対処法は避けなければならない。「犯人」を見つけてたたき出したりすることである。

公衆衛生学者のハンス・ロスリングらは、そのような人間の傾向を「犯人探し本能」と命名した。誰かを責めれば物事は解決すると思い込むことであり、ほかの原因に目が向かなくなってしまうために、将来同じ間違いを防げなくなってしまうと警告を発した(ハンス・ロスリングほか『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』上杉周作・ 関美和訳、日経BP)。

「安全」を大義名分に個人の監視も

新型コロナウイルスの起源をめぐる米中の争いが典型といえよう。中国はアメリカ軍にウイルスを持ち込んだ疑いをかけ、トランプ大統領などは「中国ウイルス」「武漢ウイルス」と返す。マクロレベルでは「自然の都合」が世界経済を大きく揺るがし、超大国同士を子どもじみたケンカに向かわせる。ミクロレベルでは、市民の間で「誰がルールを破ったか」「誰がウイルスをばらまいたか」といった犯人探しに傾倒する。

すでにいくつかのメディアが報道しているが、イスラエルは感染者の行動を追跡することを可能にするため、防諜機関であるイスラエル公安庁がスマートフォンの通信データを傍受できるようにした。

「安心」のために「プライバシー」(個人の秘密)を犠牲にする方向性だが、現在のような疑心暗鬼と恐怖感で張り詰めた空気が継続すれば、新たな法規制に対するわたしたちの抵抗感はかなり低くなるかもしれない。

これは、自発的な「分割統治」(被支配者同士の対立をあおり立てて、支配者への批判をかわす統治手法)のようなもので、国の防疫体制などの方針に対する批判や国民的な議論をも吹き飛ばしかねない。最悪の場合、危機に乗じて国は「国民の安全」を大義名分に個人の監視を合法化してしまう可能性もあるだろう。

新型コロナウイルスのパンデミックに伴う「安心」と「自由」をめぐるジレンマは、多様な局面においてわたしたちの人間性を試す厳しい試練になろうとしている。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

印政府、スマホへの国営アプリ搭載命令を撤回 個人情

ワールド

トランプ氏、エヌビディアCEOと面会 輸出規制巡り

ビジネス

マイクロソフト、AI製品の売上成長目標引き下げとの

ワールド

モゲリーニ元EU外相、詐欺・汚職の容疑で欧州検察庁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 6
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中