最新記事

日本社会

新型コロナウイルスがあぶり出す日本の危機 自粛ムードまとう「同調圧力」の危険性

2020年3月27日(金)17時00分
真鍋 厚(評論家、著述家) *東洋経済オンラインからの転載

わたしたちは自分のことを自分で決められること、自分の人生をコントロールできていてアイデンティティーの感覚が得られることに意義を見いだす。そのような価値観が尊厳のベースにもなっているからだ。

しかし、わたしたち一人ひとりの「自律性と個性」というものは、現代社会を支えているインフラとそれに基づく生活や慣習が何の問題もなく維持されていることに依存している。買いたいときに買いたい物が買える、会いたいときに会いたい人に会えるといった「人間の都合」が実現されている環境下で初めて得られる脆弱なものにすぎない。

今回のパンデミックは地震や台風などの物理的な脅威と異なり、必要な行動・コミュニケーションを困難にする心理的な脅威として強く現れる。自粛ムードはその副産物の1つだ。「未知のウイルス」であり、まだ特性に不確かな部分も多いことから、どこまで気をつけるべきかの見極めに悩むこととなる。とりわけ無症状感染者や風邪と見分けがつかない軽症者がいることが事態を複雑にしている。

「安心」と「自由」、ギリギリですり合わせ

社会距離戦略の「社会距離」は、文化人類学者であるエドワード・T・ホールが提唱した対人距離に関する概念に由来する。

ホールは、距離帯を密接距離(相手との距離が0~45cm)、個体距離(相手との距離が45~120cm)、社会距離(相手との距離が120~350cm)、公共距離(相手との距離が350cm以上)の4つに区分した(『かくれた次元』日高敏隆・佐藤信行訳、みすず書房)。社会距離は、知らない者同士や、ビジネスシーンでの会話で多用されるという。

日本では相変わらず満員電車が容認されているが、欧米では、この社会距離を取るということが目下急務というわけだ。例えば、アメリカ・カリフォルニア州の一部で3月17日から発効された「屋内退避指示」では、市民は6フィート(約183cm)の社会距離を維持することが求められている。

これは「人間の都合」を「自然の都合」にできるだけ合わせようと試みる、「安心」と「自由」のジレンマをぎりぎりのところで解消しようとする苦肉の策だ。普段わたしたちは自分たちが動物であることをあまり意識しないが、ウイルスに感染してしまうのは当然わたしたちが動物であり、望むと望まざるとにかかわらず「自然の都合」の中で生きているからだ。

しかもわたしたちは社会的動物であるのでコミュニケーションが必須であり、デジタルデバイスが不足の大半を補うとはいえゼロにすることは困難である。だが、わずかな接触の機会が新たな感染者を生んでしまう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB理事ら、インフレ警戒 利上げは慎重に見極め

ワールド

台湾輸出受注、2月23.8%増 予想下回る

ビジネス

ユニリーバの食品事業、米マコーミックが買収提案

ビジネス

アマゾンが再びスマホ開発、「Transformer
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 ──「成功」が招く自国防衛の弱体化
  • 4
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    原油高騰よりも米国経済・米株市場の行方を左右する…
  • 9
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 10
    「嘘でしょ!」空港で「まさかの持ち物」を武器と勘…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中