最新記事

ルポ

さまようアフリカ難民に、安住の地は遠い

Europe’s Harsh Border Policies

2020年3月13日(金)15時30分
サリー・ヘイデン

それでも私は、キャンプの外にあるバーに集まった人たちから話を聞くことができた。1年以上前から私に、リビアの収容所での人権侵害の証拠写真を送ってきていた人たちだ。隠し持っていた携帯電話で撮ったものだ。

ルワンダへ移してくれたことには感謝している、しかし、ここから出られないことには腹が立つ。彼らはそう言った。自分たちの未来が見えないし、リビアに残してきた仲間のことが心配だと。

彼らはルワンダに来る前、リビアのジンタンやアインザラ、トリク・アルシッカやサバアなどの収容所にいた。そこでは医療を受けられずに死んでいく人を目の当たりにしたし、食料の搾取や拷問、強制労働に就かされるなどのひどい体験もしたという。

「ルワンダに溶け込める」

重い武器を運ばされたときに割れたという爪を、アレクスは見せてくれた。彼がいたトリク・アルシッカ収容所では、絶望したソマリア人の男性が焼身自殺している。肺結核にかかった人もいれば、今なお心の傷と闘っている人もいる。「心が完全に壊れてしまった。オートバイやヘリコプターが怖い」と、あるエリトリア人は言った。

トラウマは簡単には消えない。国境なき医師団で人道問題を担当するソナル・マルワは、リビアの収容所の「危険な生活環境」や「深刻な人権侵害」を問題視する。収容所を出た後も、人々は不安神経症や鬱に苦しむという。

一方、ルワンダに移った難民も新たな現実と格闘している。長期の収容で運動不足になった体を「元の体形」に戻したくてダイエットを始めたと、若い女性は語る。

未成年者の一部は薬物やアルコールに溺れている。ルワンダ人売春婦の元に通う男もいる。深夜、外で酒を飲んでいた難民が襲われ、金品を奪われる事件も起きた。

「まだ歩けない赤ん坊が外を歩き回るようなもの。ここは未知の惑星だ」。あるエリトリア人男性はそう言う。

リビアも仲介業者も国連もルワンダも、自分たちを食い物にするだけだ、もはや誰も信用できない──そんな不信を募らせる人も多い。

話を聞いた15人の難民全員が、いずれはルワンダを出て欧米に移住できると信じていると語った。一部の難民はリビアをたつ前の晩に初めて、UNHCR職員からルワンダに長くとどまることになるかもしれないと聞かされた。

それでもルワンダ行きを断れば、ただでは済まない。UNHCRは、移送を断る難民は「非常に少ない」と認めている。断れば再定住や移送の対象から外されるからだ。

私の滞在中、ガショラの難民キャンプに緊張が走った。滞在が長期化すると感じた難民の一部が当局に抗議し、話し合いの席で椅子を蹴り倒したのだ。その後、彼らは集会を禁じられたという。

昨年11月、彼らは新たな衝撃を受けた。UNHCR地中海難民担当特使のバンサン・コシュテルが、ルワンダの難民は間違った期待をしているとツイートしたのだ。

「UNHCRにはリビアにいる難民全員を再定住させる義務はない」と、彼は書いた。「その気になれば欧米行きの選択肢を諦め、ルワンダ社会に溶け込めるはずだ」

とんでもない、こんな場所で暮らすくらいなら、仲介業者にもう一度金を払って渡欧を試みればよかった。リビアに戻ってやり直したほうがましだ。移送は国連のPRとルワンダの寛容さの宣伝に役立つだけで、誰も難民の利益など考えていない──そんな声も聞いた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

カナダ首相、インド・オーストラリア・日本を訪問へ 

ビジネス

「メード・イン・ヨーロッパ」計画の発表1週間延期、

ワールド

米EU貿易協定に承認手続き延期論、違憲判決受け欧州

ワールド

ハンガリー、対ロ制裁とウクライナ融資阻止の構え き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 2
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面を突き破って侵入する力の正体が明らかに
  • 3
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中小企業の「静かな抵抗」
  • 4
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 7
    「窓の外を見てください」パイロットも思わず呼びか…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 10
    ペットとの「別れの時」をどう見極めるべきか...獣医…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 5
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 8
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 9
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 10
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中