イタリアが「欧州の武漢」に なぜ感染は急速に広がったのか
新型コロナウイルスを封じ込めるために封鎖された「レッドゾーン」の1つ、サン・フィオラーノ。2月ア29日撮影(2020年 Marzio Toniolo)
これまでのところ、欧州で新型コロナウイルスの感染拡大が最悪の状況を迎えているのはイタリアだ。そこでは、日常生活は不気味で行き場のない静寂にとらわれている。夜を迎えればいっそう不安は募る。
ダビデ・ベネッリさんは自宅で、「救急車が行き交う音が聞える。新型ウイルスとは無関係の病人のもとに向かっているのかもしれないが、不安になることには変わりない」と話す。彼が暮らすのは、イタリア国内で封鎖状態にある「レッドゾーン」に位置する人口約1万5000人の街、カサルプステルレンゴだ。感染が拡大したのは1週間前である。
ある朝、目を覚ますと、カフェやレストラン、学校は休業状態だった。作付けの時期が迫る農家は気を揉んでいる。親たちは、子どもの退屈を紛らわせようと家の近くでゲームやお手伝いをさせたり、ときには自転車や自動車で遠出している。
イタリア北部の工業中心地がこのような麻痺状態に陥ったことをきっかけに経済の動揺は欧州全体に波及している。だがイタリアは、散発的に見える感染拡大が数日中にも拡大する可能性をどうやって抑え込むのか手探りの状態で、ユーロ圏第3位のイタリア経済はリセッションの瀬戸際に立たされている。
イタリア当局は同国で最も生産性の高い地域を封鎖し、主要な観光向けイベントの1つであるベネチアのカーニバルを中止し、ミラノのデザインの祭典「ミラノサローネ」も延期された。
イタリア金融界の中心地であるミラノを取り巻くロンバルディア州は、スイスとの国境に位置し、欧州でも最も豊かで生産性の高い地域の1つである。隣接するベネト州など、やはり新型ウイルスの感染拡大による打撃を受けている他の主要地域と合わせて、この地域はイタリアの経済生産の約3分の1を担っている。
エコノミストらの予測では、ただでさえ不振に悩んでいるイタリア経済は、この危機によって第1四半期末までにリセッションに陥り、波及的な影響は数カ月にわたって続くという。
ベネト州のルカ・ツァイア知事は、「ベネトには60万社の企業があり、年間GDPは1500億ユーロ(約18兆円)だ。もしこの州がリセッションに陥ったら、イタリア経済も沈む」と語る。