最新記事

野生動物

新型コロナウイルスの流行で中国は野生動物を食べなくなるか

The Coronavirus Could Finally Kill the Wild Animal Trade

2020年2月26日(水)17時45分
リンジー・ケネディ、ネイサン・ポール・サザン

だが、単なる取引禁止はかえって逆効果だ。闇取引の活発化につながり、価格の高騰だけでなくさらなる乱獲をも招くことになる。野生動物の密猟の実態を描いた『絶滅をもたらす市(The Extinction Market)』の著者、バンダ・フェルバブ・ブラウンが指摘するように、訴追に対する恐怖だけでは、まともな仕事が少ない土地で家族を養う密猟者たちに密猟をやめさせることはできない。絶滅危惧種の密猟を違法にして飼育を合法にする方法だと、何が合法で何が違法なのか消費者の混乱を招く。それにSARSウイルスを持っていたジャコウネコは、野生ではなく飼育された個体だった。

結局のところ、買い手がいる限り取引はなくならない。「市場での取引を禁止するだけではダメだ。野生動物を食べるのはよくないことだと消費者を納得させる必要がある」と、ベン・エンベレクは言う。

人類はこれまで、種として幸運だった。抗生物質が簡単に手に入るようになったので、ペストのように致死率も感染力も強い細菌性感染症も芽のうちに摘み取ることができる。ウイルスはもっと制御が難しいが、これまで最も危険なウイルスは、中国のように早期に流行を抑え込める比較的進んだ社会か、ギニアの農村部のように世界の交通ハブからは隔絶された場所で起きた。

だが、動物由来感染症が、手の施しようもなくあっという間に遠くまで広がってしまう日がくるのも時間の問題だ。それがやってくるのは「数学的に確かだ」と、ダザックは言う。新型コロナウイルスは、不気味にその資格を満たしていそうに見える。この数日の間に、イランと韓国、イタリアでほぼ同時に感染が拡大した後では、とくにそうだ。

もちろん、過去には密林や山の奥に一瞬表れただけで死滅した病原体も多い。だがそれは、世界が今ほどつながっていなかった時代の話だ。今は、年間推定4000万もの航空便が、生まれたての病原体を猛スピードで運んで歩ける。そこでは、より裕福で交通の激しい国ほど危険なのだ。

「今こそ、野生動物との関係を見直し、そっとしておいてやるべきだ。そうすればウイルスをもらうこともなくなる」と、ダザックは言う。「野生動物の肉を食べればに命が危ない。その事実を、広く知らしめなければ」

From Foreign Policy Magazine

20200303issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月3日号(2月26日発売)は「AI時代の英語学習」特集。自動翻訳(機械翻訳)はどこまで使えるのか? AI翻訳・通訳を使いこなすのに必要な英語力とは? ロッシェル・カップによる、AIも間違える「交渉英語」文例集も収録。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中