最新記事

新型コロナウイルス

新型コロナウイルス感染拡大がもたらす株価暴落と世界封鎖

Get Ready for Closed Borders and Crashing Markets

2020年2月25日(火)19時15分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌シニアエディター)

自然災害はときに、人々を結束させてきた。1999年にトルコ北西部で地震が発生したときは、対立していた隣国ギリシャと助け合い、それがきっかけで外交関係も好転した。WHOなどの疾病対策機関は、国際協力の希望の星だった。

しかし、新型コロナウイルスではなぜか協力関係がほとんど見られず、代わりに陰謀説がもてはやされている。中国、あるいはアメリカの陰謀という説だ。中国政府はアメリカからの支援の申し出を断り、国粋主義的な反米レトリックを強化している。中国のメッセージアプリ「WeChat(微信)」では、新型ウイルスはアメリカから来たという陰謀説が、検閲後も削除されずに残っている。2月半ばに、攻撃的な国家主義者として知られる趙立堅が、中国外務省の副報道局長に就任したのも不気味だ。

感染がさらに広がれば、世界各国の中国に対する姿勢も厳しさを増すだろう。中国重視の姿勢を見せてきたカンボジアのフン・セン首相やパキスタンのイムラン・カーン首相にとっては、新型コロナウイルス流行は、中国政府に取り入るチャンスだ。独裁を目指す国家なら、中国の強権的で「効率的」なやり方に学ぼうとするのも無理はない。だが中国の台頭を懸念する人に言わせれば、新型ウイルス発生当初に中国政府が行った隠ぺい行為だけでも、世界的流行の責任をなすりつけるのに十分だ。

4.システム的な故障

これらすべてが、相互に事態を悪化させる。国や都市を封鎖すれば恐怖を煽る。恐怖は市場を歪ませ、生産性を破壊する。分断は国際協力を不可能にし、渡航制限を招く。最も危険なシナリオは、ウイルスの影響が巡り巡ってシステム全体を崩壊させるシナリオだ。

世界は、そのシナリオがどのようなものかを武漢ですでに目にしている。ウイルスによって、かねてから脆弱だった医療システムは完全に機能が停止してしまった。その結果、人数は不明だが、死ぬ必要のなかった死者が出た。彼らが命を落としたのはウイルスのためではなく、治療のための十分なベッドや機器、救急車が足りなかったからだ。

中国は、一人当たりで見ればまだ貧しくても、国としては膨大な富と人的資源を有している。インドやインドネシアなどの国々は、巨大な人口を抱えていても資源はかなり少なく、より厳しい状況に陥るかもしれない。医療から銀行にいたる日常的なサービスが機能停止になれば、その波及効果は壊滅的なものとなるだろう。

そうした事態はどれも、防げないものではない。人間は危機的状況に直面すると、非常に粘り強くなって順応性を発揮し、協力的になる。もしかすると、ワクチンが予想より早く完成するかもしれない。夏が来れば、ウイルスの拡散スピードが弱まる可能性もある。

ウイルスとの戦いでは、検疫や規制より、一般の人々に対する教育のほうがはるかに大きな威力を発揮する。世界のリーダーたちが立ち上がり、このリスクに真剣に取り組めば、の話だが。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、3.3万件減の23.1万件 予

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中