最新記事

感染症

新型コロナウイルスについて医学的にわかっていること

How China’s Coronavirus Is Spreading—and How to Stop It

2020年1月28日(火)19時15分
アニー・スパロウ(マウント・サイナイ医科大学助教)

肺炎は片方または両方の肺が病原体に感染する病気と定義され、ヒポクラテスの時代には既に「古代からある病気」として認識されていた。そして1881年、細菌性肺炎の主な原因である肺炎球菌がようやく特定された。それから100年の間に、医療の進歩と抗生物質の開発によって治療が可能になり、さらに集中治療専門医が増えたことで、細菌性肺炎の死亡率は1桁台に下落した。

その一方で、呼吸器系ウイルスによって重度の感染が引き起こされるケースがほとんどないことから、成人ICUの医師は一般に、ウイルス性肺炎の治療経験が比較的少ない。それでもSARSやH1N1型インフルエンザ、MERSの感染は重い肺炎や呼吸不全につながる可能性がある(よく使われる抗炎症薬の副腎皮質ステロイドは効果がなく、WHOは使用を避けるよう指導している)。効果的な抗炎症薬や治療法がないため、ウイルス性肺炎の死亡率は高い。

新型コロナウイルスの死亡率がどれぐらいかは分かっていない。同ウイルスに感染して死亡した人の数は、1月前半には10人未満で済みそうに見えたが、今では感染者全体の3%以上に増えている。これは報告そのものが増えたことを反映している可能性もあるし、感染から死亡までのタイムラグを反映している可能性もある。

感染者を死に至らしめるリスク要因が何なのかも分かっていない。一部の成人の感染者については、持病のために免疫力が弱っていたことが確認されている。そうした人の15%が死亡しており、その中でも高齢者や、糖尿病、高血圧や冠動脈疾患を併発していた人の死亡率が高かった。だが多くの患者はもともと健康に問題はなく、最近死亡した30代の男性も既往歴はなかったという。

発熱ではわからない

感染者を見つけることは、治療よりさらに難しい。武漢では、約37.3度以上の熱がある人は誰でも感染の疑いがあるとしている。それが、肺炎の98%にあてはまる症状だからだ。それから一人一人に、どこかで新型コロナウイルスと接触した可能性があるか聞き取りをして対象者を絞り込む。理屈の上では、もっともなやり方だ。

だが実際には、これほど厄介なやり方はない。熱と咳という初期症状は、インフルエンザのように冬によくある疾患の症状と区別がつかない。熱が出る病気は、アレルギーや関節炎など感染症以外に何百もある。妊娠で熱が上がることもある。

武漢のような都市には、何らかの理由で熱を伴う病気の人が人口の約1%、1万1000人はいる可能性があるので、診療所や病院、医療スタッフは患者と仕事に圧倒され、検査も防護具も間に合わない事態となる。やむをえず熱のある人はすべて検査結果が戻ってくるまで病院で隔離すると、混雑した病院内で集中的に感染が起こるリスクが高まる。

国際空港での検疫も、タイと韓国では成功したが、アメリカとオーストラリアでは失敗した。検疫を通ったときはまだ潜伏期だったため、感染者を見逃したのだ。後で症状が出て病院を訪ねたときに、初めて感染が明らかになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンド、銀行株売り 消費財に買い集まる=ゴ

ワールド

訂正-スペインで猛暑による死者1180人、昨年の1

ワールド

米金利1%以下に引き下げるべき、トランプ氏 ほぼ連

ワールド

トランプ氏、通商交渉に前向き姿勢 「 EU当局者が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中