新型コロナウイルスについて医学的にわかっていること
How China’s Coronavirus Is Spreading—and How to Stop It
SARSの時と同様に、気管支鏡検査や吸入治療などの際に発生する飛沫が微粒子となって放出され、医療スタッフに感染して「スーパースプレッダー」になる可能性がある。飛沫感染は、手洗いや防護具(予防衣や手袋、マスク、ゴーグル)の装着によって減らせる。だがウイルスには潜伏期間があり、現在のところその期間は1日から14日間と推定されている。
さらに事態を複雑にしているのは、新型コロナウイルスがどれだけ広まりやすいかが分かっていないことだ。最近の中国政府の発表では、症状が出る前にほかの人にうつることもあるようだ(地球上で最も伝染性の強い病気の部類に入るはしかは、症状が出る2~4日前から感染力を持つ)。だが、感染しても症状が出ないで終わる人がウイルスを広めることはあるのだろうか? SARSのように発症してしばらく経った後は感染力が弱まるのか、それともエボラのように病気の進行にともなって感染力も強くなっていくのか? こうした疑問の答えは出ていない。
同じくコロナウイルス系のSARSやMERSと同様に、新型コロナウイルスも肺炎を引き起こす。だが肺炎はウイルスが引き起こし得る症状の一つにすぎない可能性があり、それが感染を検知しにくい原因のひとつだ。
軽い初期症状から急激に悪化
実際、同ウイルスは症状が現れないものから命に関わるものまで、さまざまな病気を引き起こす可能性が高い。命に関わるケースでも、初期症状は発熱や乾いた咳、筋肉痛や疲労感など、ほかの多くの病気と同じような、より危険性の低いものだ。痰の出る咳や頭痛は滅多にないが、咳をした時に血が出たり、下痢になったりする症状は時折みられる。感染した人が体調を崩して医師の診察を受けようと思うまでには、約1週間かかる場合がある。
だが最初は穏やかでも、2週目に入ると症状は急速に悪化する(これもSARSとよく似ている)。肺の損傷が進行すると血中の酸素濃度が低下し、呼吸困難を起こして酸素吸入が必要になる。合併症として急性呼吸不全(ARDS)が引き起こされることが多く、このうち25~32%は集中治療室(ICU)で人工呼吸器などの補助装置を使った治療が必要になる。
そのほかの合併症には敗血性ショック、急性腎障害やウイルスが原因の心損傷などがある。肺の損傷が大きいと、細菌の二次感染による肺炎にもかかりやすくなり、実際にICUに入った患者の10%がこうした細菌性肺炎に感染する(1918年にスペイン風邪=インフルエンザ=が大流行した際も、死亡した5000万人の多くが細菌の二次感染による肺炎によって命を落としたとされている)。