最新記事

感染症

新型コロナウイルスについて医学的にわかっていること

How China’s Coronavirus Is Spreading—and How to Stop It

2020年1月28日(火)19時15分
アニー・スパロウ(マウント・サイナイ医科大学助教)

SARSの時と同様に、気管支鏡検査や吸入治療などの際に発生する飛沫が微粒子となって放出され、医療スタッフに感染して「スーパースプレッダー」になる可能性がある。飛沫感染は、手洗いや防護具(予防衣や手袋、マスク、ゴーグル)の装着によって減らせる。だがウイルスには潜伏期間があり、現在のところその期間は1日から14日間と推定されている。

さらに事態を複雑にしているのは、新型コロナウイルスがどれだけ広まりやすいかが分かっていないことだ。最近の中国政府の発表では、症状が出る前にほかの人にうつることもあるようだ(地球上で最も伝染性の強い病気の部類に入るはしかは、症状が出る2~4日前から感染力を持つ)。だが、感染しても症状が出ないで終わる人がウイルスを広めることはあるのだろうか? SARSのように発症してしばらく経った後は感染力が弱まるのか、それともエボラのように病気の進行にともなって感染力も強くなっていくのか? こうした疑問の答えは出ていない。

同じくコロナウイルス系のSARSやMERSと同様に、新型コロナウイルスも肺炎を引き起こす。だが肺炎はウイルスが引き起こし得る症状の一つにすぎない可能性があり、それが感染を検知しにくい原因のひとつだ。

軽い初期症状から急激に悪化

実際、同ウイルスは症状が現れないものから命に関わるものまで、さまざまな病気を引き起こす可能性が高い。命に関わるケースでも、初期症状は発熱や乾いた咳、筋肉痛や疲労感など、ほかの多くの病気と同じような、より危険性の低いものだ。痰の出る咳や頭痛は滅多にないが、咳をした時に血が出たり、下痢になったりする症状は時折みられる。感染した人が体調を崩して医師の診察を受けようと思うまでには、約1週間かかる場合がある。

だが最初は穏やかでも、2週目に入ると症状は急速に悪化する(これもSARSとよく似ている)。肺の損傷が進行すると血中の酸素濃度が低下し、呼吸困難を起こして酸素吸入が必要になる。合併症として急性呼吸不全(ARDS)が引き起こされることが多く、このうち25~32%は集中治療室(ICU)で人工呼吸器などの補助装置を使った治療が必要になる。

そのほかの合併症には敗血性ショック、急性腎障害やウイルスが原因の心損傷などがある。肺の損傷が大きいと、細菌の二次感染による肺炎にもかかりやすくなり、実際にICUに入った患者の10%がこうした細菌性肺炎に感染する(1918年にスペイン風邪=インフルエンザ=が大流行した際も、死亡した5000万人の多くが細菌の二次感染による肺炎によって命を落としたとされている)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=

ビジネス

ビットコイン一時9万ドル割れ、リスク志向後退 機関

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中