最新記事

少女兵

殺人を強いられた元少女兵たちの消えない烙印

When Young Girls are Forced to Go to War

2020年1月24日(金)17時00分
アビバ・フォイアスタイン(テロ対策専門家)

元少女兵の汚名は結婚の妨げにもなる。マーサは12歳になる前、強制的にLRA司令官の妻にされた。

「25歳になった今でも、まだ『汚れた女』と思われている」と、彼女は嘆く。何人かの女性は町から町へ引っ越しを繰り返し、過去を隠して新しい自分に生まれ変わろうとしたと話す。しかし、噂はすぐに広まる。

同じ武装勢力の戦闘員だった男たちまでが、元メンバーの女性を「傷物」だとして拒否することがよくある。組織にいる間にレイプされ、出産したシングルマザーの場合は、子供たちの存在が過去との決別を困難にする。婚姻関係が経済的安定に不可欠な家父長制社会では、結婚できるかどうかは切実な問題だ。

magw200124_Girls5.jpg

LRAに誘拐された元少女兵と赤ん坊 COURTESY OF WRITER AVIVA FEUERSTEIN

汚名は子供にも付きまとう。マーサの6歳の娘は学校で「反乱軍」と呼ばれ、他の子供たちから一緒に遊ぶことを拒否される。ジェニファーという少女は学校でいい点数を取っても、「反乱軍の父親に教わった魔法を使ってトップになった」と教師に言われ、成績を取り消された。

親族までも苦しみに追い打ちをかける。ローズの母方の祖父母は、娘が組織から解放され、家に戻ったときに大喜びしたが、孫娘は受け入れようとしなかった。父親が武装勢力のメンバーだったからだ。

元少女兵は粗暴犯や軽犯罪者の餌食にもなりやすい。地域社会の関心が薄く、報復される心配があまりないからだ。コロンビア政府の社会復帰支援機関の職員によると、コロンビア革命軍(FARC)の女性メンバー数人が昨年、地域社会で強い身の危険を感じているとして、政府に特別な保護を要求して認められた。

武装勢力時代とその後の経験から来る心理的な傷も、少女のほうが深刻だ。米国立衛生研究所(NIH)とハーバード大学の研究によると、少女兵は家に戻った後、少年よりも鬱やPTSDを発症しやすい。

無理もない。少女兵はレイプや性的虐待の被害を訴える件数が少年兵よりかなり多い。一方、FARCのような組織でリーダー的役割を任され、一定の男女平等を経験した元少女兵は、伝統的社会の男女の役割意識や偏見への適応に苦労する。

スリランカの反政府武装勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」から救い出された若い女性向けに、美容教室を開いたヘアサロンの経営者はこう語る。「最初のうちは歩き方も話し方も男のようだった。彼女たちは長い間、女性らしい表現を禁じられていた。でも美容教室を受講した後は振る舞いが変わり、感情を爆発させて泣きだした」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

世界の債務残高、昨年末318兆ドルで過去最大 対G

ワールド

ウクライナ大統領、28日訪米 鉱物協定署名へ=トラ

ワールド

トランプ氏、銅輸入巡り国家安保上の調査を指示 新た

ワールド

英仏首脳、ウクライナ和平へのトランプ氏の取り組みを
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:破壊王マスク
特集:破壊王マスク
2025年3月 4日号(2/26発売)

「政府効率化省」トップとして米政府機関に大ナタ。イーロン・マスクは救世主か、破壊神か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほうがいい」と断言する金融商品
  • 2
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 3
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 4
    日本人アーティストが大躍進...NYファッションショー…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    見逃さないで...犬があなたを愛している「11のサイン…
  • 7
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 8
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 9
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 10
    国連総会、ウクライナと欧州作成の決議案採択...米露…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 5
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 8
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中