最新記事

米イラン危機:戦争は起きるのか

米イラン危機、次の展開を読む――トランプはどんな代償を払ってでも勝利を目指す

NOT AFRAID TO WAG THE DOG

2020年1月17日(金)15時40分
サム・ポトリッキオ(本誌コラムニスト、ジョージタウン大学教授)

トランプのイラン政策は失敗続きだ。大統領に就任すると、オバマ政権が綿密に交渉を重ねたイラン核合意を破棄した。この合意はイランの核開発を制限しただけではなく、そのとおり実行すれば制裁を解除すると保証してイラン国内の穏健派を後押しするものでもあった。

この合意の代わりにトランプが導入したのが、「最大の圧力」作戦だ。制裁によってイラン経済を弱体化させれば再びアメリカとの交渉に応じ、かなりの譲歩をしてくるだろうという考えが前提にあった。

トランプは全く間違っていた。イランは核合意が破棄されて以降、挑発的な攻撃を繰り返すようになった。昨年5月以降だけでもホルムズ海峡で石油タンカーを破壊し、アメリカのドローンを撃墜し、サウジアラビアの石油施設を攻撃した。

アメリカのイラン核合意離脱が軽はずみな行動だったことを何より証明しているのが、今後の攻撃の予防策としてソレイマニを殺害したトランプの決断だ。もしトランプの政策が成果を上げていれば、イランの重要な指導者を殺害するという手段に頼る必要はなかっただろう。

彼の向こう見ずな行動が国民の支持を得ていないのは明らかだ。ジョージ・W・ブッシュ元大統領のスピーチライターで、イランを含む「悪の枢軸」という言葉を考案したデービッド・フラムが書いているように、「トランプ政権とその支持者は、ソレイマニ殺害で大統領の支持率が一時的に上昇すると期待していたようだが、そうはならなかった」のだ。

ソレイマニ殺害直後に行われた世論調査では、現在の状況へのトランプの対応を支持しないと答えた人が全体の53%だった。この数字は昨年秋と変わらないが、注目すべきなのはトランプのイラン政策に「強く反対」と答えた人が昨年12月から10ポイント増えて、39%に上ったことだ。

トランプ支持者は、この調査が1月8日に彼が演説を行う前に実施されたからだと言うだろう。演説でトランプは、イランが「攻撃態勢を緩めている」と発言。イランの貴重な文化遺産も標的にするとツイッターで息まいたのを忘れたかのように、事態を沈静化させたい意向を示した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 8
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中