最新記事

レバノン逃亡

ゴーンの切手まであるレバノンからどうやって被告を取り戻す?

2020年1月9日(木)19時42分
広岡裕児(在仏ジャーナリスト)

「海外で最も成功したレバノン人」として崇拝されるゴーンのベイルートの自宅 Mohamed Azakir-REUTERS

<「帰ってきたゴーン」を熱烈に歓迎し、入閣まで取り沙汰されるレバノンはただでは彼を手放さない>

インターポールの国際手配のページを見ると「Red Notice」というロゴの横に、大きくGHOSN BICHARA, CARLOS/Wanted byJapanと出てくる。写真がnot avilableで出ていないのがご愛敬だ。

その下には、日本語訳すると、次のようにある。姓ゴーン=ビシャラ/名カルロス/性別男/生年月日09/03/1954 (65 歳)/国籍ブラジル、レバノン、フランス/話す言語スペイン語、英語、フランス語、アラビア語、ポルトガル語/容疑:会社法960条(1)と(iii)違反、金融商品取引法24条(1)と(i)違反、会社法960条(1)と(iii)違反(注:なぜか繰り返されている)。

この「赤手配書」は、身柄拘束を求めるもので、国際刑事警察機構(ICPO)に加盟している194か国に通知されている。ただし、受け取った国に身柄拘束の義務はなく、引き渡しを求めるものでもない。

レバノン当局も国際手配書を受領したが、ゴーン被告を逮捕拘束することはまずないだろう。なにしろ、ゴーン被告がレバノンに「戻ってきた」という報が伝わると、SNSには歓迎の声があふれ、新内閣に入閣するのではないかとの噂までたったのである。

大統領の呼び声も

ゴーン被告は、海外で最も成功したレバノン人のシンボルになっている。2017年にはその肖像切手も発売された。お披露目の会には通信大臣がみずから出席して「レバノンに非常に強く根付きながら国際的に活躍している」と最大級の賛辞を贈った。

ゴーン被告は現地の有力な投資銀行の4.6%の株をもち、北レバノンでの大規模不動産開発にも投資している。それは、各々2000平方メートルの13 区画、47 の山荘、ホテル、スパ、レストランというものだ。イクシールに66ヘクタールの高級ワイン・ヤードをもち、年間60万本を生産し、アメリカ、スイス、英国そして日本に輸出している。日産退職後は、息子が運用している投資ファンド「ショウグン」よりも大きな50億ドル規模のファンドをつくってレバノンの金融機関やスタートアップへの投資をするといわれていた。

慈善事業や大学などへも大きな寄付をしている(本をただせばルノー・日産の金だが)。危機にあるレバノン経済を建て直す経済大臣、中央銀行総裁、はては大統領の声さえあった。

ゴーン被告は6歳のとき父祖の地に戻る家族とともにブラジルから移り住んだレバノンを心の故郷にしている。フランスに留学する前にはレバノン有数のエリート校イエズス会系のノートルダム・ド・ジャンブール中等学校に学んだ。卒業生がゴーン釈放を要求する署名運動をし、支援団体をつくったりもしている。

政府中枢とのパイプも太い。ゴーン逮捕の報が入るや否や、外相は、日本大使を召喚し逮捕の事情と拘置の状態をただした。内相は「レバノンの不死鳥は日本の太陽では燃え尽きない」とマスコミに語った。

<参考記事>強烈な被害者意識と自尊心 ゴーンが見せていた危うい兆候
<参考記事>ゴーン追放で日産が払った大きな代償

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏サービス部門PMI、2月は44.5 17か月ぶり

ビジネス

フィリピン中銀、銀行預金準備率引き下げ 3月下旬か

ワールド

イスラエル首相、人質遺体返還巡りハマス非難 「代償

ワールド

韓国、38年までに脱炭素電源7割目標 大型原子炉2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    ハマス奇襲以来でイスラエルの最も悲痛な日── 拉致さ…
  • 10
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中