最新記事

日本経済

消費税率アップで日本経済は悪化するのか?

2019年10月18日(金)18時45分
野口旭(専修大学経済学部教授)

今回の日本の消費増税の根拠となっている、旧民主党政権下の2012年6月に民主党・自民党・公明党によって取り決められた「社会保障と税の一体改革に関する合意」、いわゆる消費増税の3党合意も、ギリシャ危機以降の世界的な財政懸念を受けて成立したものである。そこでは、財政再建のために、5%であった消費税率を2014年4月から8%へ、さらに2015年10月から10%とすることが定められた。

しかしながら、その増税の完遂は結局、当初の予定から4年遅れることになった。それは、3党合意成立直後の2012年12月の総選挙によって、自民党・公明党が政権に復帰し、アベノミクスすなわち「金融政策、財政政策、成長戦略という3本の矢を用いたデフレ脱却」を掲げる第2次安倍政権が成立したからである。

安倍政権は、2014年4月の消費増税は予定どおり実行したものの、2015年10月に予定されていた2回目の増税は、難航するデフレ脱却をさらに困難にするという判断により、2度にわたり延期した。従って、今回の増税実施は3度目の正直ということになる。

駆け込みの反動減を警戒

今回の消費増税の影響については、専門家の間でも悲観論と楽観論が交錯している。悲観論の最大の根拠は、これまでの前2回の増税がいずれも事前の想定以上の負の影響をもたらした事実にある。間が悪いことに、好調を維持していた世界経済も今年に入って明らかに減速している。最も懸念されるのは、デフレ脱却がいまだ不十分であり、人手不足が喧伝されつつも、十分な賃金上昇までには至っていない点にある。

消費増税によって人々の実質所得がいったん減少したとしても、賃金が上昇し続けている限り、その負の影響は時間とともに打ち消される。諸外国では消費増税の下押し効果が一時的でしかないのは、そのためである。

竹下登政権下の1989年4月に導入された3%という最初の消費税が、ほぼ何の影響ももたらさなかったのも、当時の日本経済では毎年5%弱程度の賃金上昇が実現されていたからである。

それに対して、デフレによって賃金が十分に上昇しないなかでは、消費増税による実質所得の減少は、打ち消されることなくそのまま永続する。

他方で、消費増税の下押し効果は、今回はそれほど大きくないという楽観論もある。その最大の根拠は、これまでとは異なり、経済の落ち込みを回避するために、軽減税率をはじめとした数多くの対策があらかじめ準備されている点にある。軽減税率は納税を極めて煩雑化させるため、制度それ自体に対する関係者の評価は高くはない。しかしそれが、少なくとも納税者の負担を軽減することは明らかだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロビンフッド、EU利用者が米国株を取引できるトーク

ワールド

トランプ氏、シリア制裁解除で大統領令 テロ支援国家

ビジネス

ECBの次回利下げ、9月より後になる公算=リトアニ

ワールド

トランプ氏、日本に貿易巡る書簡送付へ 「コメ不足な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中