最新記事

日本経済

消費税率アップで日本経済は悪化するのか?

2019年10月18日(金)18時45分
野口旭(専修大学経済学部教授)

あの手この手の対策のせいか増税前の駆け込み買いはそれほど見られなかった TORU HANAI-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

<電子マネー還元や教育無償化で増税分を帳消しに――優遇措置で不況の本格化は避けられる?>

政府が行う経済政策の中で、税金ほどわれわれの生活に直結するものはない。税金の必要性は、社会全体の観点からは明らかである。

経済には、公的インフラや公共サービスのように、民間企業では適切に供給できないものが存在する。また、社会の安定化のためには社会保障も必要である。現代社会では、それらは政府が担うことが当然と考えられている。

しかしそれには資金が必要になる。政府はその資金を取りあえず国債の発行で賄うこともできるが、それには限度がある。その政府債務の限度がどのくらいかは実際にはよく分からないが、それが行き過ぎると、財政破綻や悪性インフレが生じると信じられている。そうならないために必要と考えられてきたのが、増税を通じた「財政再建」である。

他方で、われわれ個人の観点からは、税金は単に「政府による所得の収奪」だ。所得税は文字どおり政府への直接の所得移転である。消費税はそれを、物品売買ごとに間接的に行う。従って、増税すなわち税率の引き上げが行われれば、われわれの可処分所得は確実に減少する。そのため、われわれは支出の切り詰めを余儀なくされる。

つまり増税は、仮にそれが財政再建に必要であったとしても、ほぼ常に経済全体の需要を減らすように作用する。それは場合によっては、深刻な景気悪化につながる。

実際、1997年4月に行われた消費税率の3%から5%への引き上げは、厳しい景気悪化をもたらし、その後に続く長期デフレ不況の引き金となった。また、第2次安倍晋三政権によるアベノミクスの発動によって進展していたデフレ脱却を頓挫させたのは、2014年4月に行われた消費税率の5%から8%への引き上げであった。

財政に振り回された経済

消費増税の場合には、単なる可処分所得減少による支出減少のみではなく、「増税前の駆け込み需要の反動減」が加わるために、増税実行後の経済の落ち込みは、より一層大きくなるのである。

消費増税問題は、バブル経済が崩壊した1990年代以来、日本の経済政策の一大争点であり続けてきた。その長年にわたる論争と合意、そして延期の結果、2019年10月に因縁付きの増税が実行されるに至ったのである。

消費増税が政策課題としてクローズアップされた発端は、バブル崩壊後の税収減と財政支出によって急拡大した財政赤字を背景に、1994年に提起された「国民福祉税」構想だ。この構想は頓挫したが、増税方針自体は生き残り、1997年4月に消費税増税が実行された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日仏、円滑化協定締結に向けた協議開始で合意 パリで

ワールド

NATO、加盟国へのロシアのハイブリッド攻撃を「深

ビジネス

米製造業新規受注、3月は前月比1.6%増 予想と一

ワールド

暴力的な抗議は容認されず、バイデン氏 米大学の反戦
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中