消費税率アップで日本経済は悪化するのか?
この増税により、日本経済は戦後最悪の経済危機に陥った。それは、1996年頃までの緩やかな景気回復の中でそれなりに消化されているようにもみえた金融機関の不良債権が、景気の悪化によって一気に表面化したからである。その結果、1997年末から98年にかけて、日本を代表する金融機関が次々と破綻した。そのようにして生じた金融危機は、その後の日本経済に、デフレという厄介な病を定着させる契機となったのである。
日本経済は、この消費増税を契機とした経済危機の後、一時的な景気回復は見られたものの、経済停滞と財政悪化が同時進行する長期デフレ不況に陥った。そこで生じたのが、「増税による財政再建」論と「デフレ脱却と経済成長を通じた財政再建」論との路線対立だ。
これは要するに、財政再建を優先するか、景気回復を優先するかの対立である。財政再建派は、増税が一時的には景気悪化をもたらすことは認めるが、それは財政破綻を防ぐために甘受すべきとする。
それに対して景気優先派は、財政再建のためにもまずは増税ではなく景気回復によるデフレ脱却が必要だとする。それは、デフレとは物価や所得が継続的に下落することであるから、その物価や所得に依存する税収はデフレが続く限り減少して当然だからである。
こうした財政緊縮論と、反緊縮論すなわち景気優先論の対立は、景気悪化が続けば、日本に限らずどの国でも必ず生じている。2008年9月に米投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻し(いわゆるリーマン・ショック)、それを契機に「100年に1度」と言われる世界的不況が生じたとき、各国は一斉に景気回復のための拡張的財政政策、すなわち財政支出や減税を行った。
しかし、多くの国の財政状況は、厳しい景気悪化に伴う税収の減少と、この財政支出拡大の相乗効果によって、急激に悪化した。その結果生じたのが、2010年春のギリシャ危機を発端として欧州各国へと拡大した、欧州債務危機である。世界各国はこれを契機に、今度は逆に財政再建のための緊縮財政へと舵を切った。
そうした財政政策の右往左往を象徴する国の1つは、イギリスである。イギリスは、リーマン・ショック直後の2008年12月に、景気回復のため、付加価値税(日本でいう消費税)の17.5%から15%への引き下げを、各国に先駆けて実行した。
しかし、財政悪化懸念の高まりを背景として、2010年1月には税率を15%から17.5%に戻し、その1年後の2011年1月にはそれをさらに20%にまで引き上げた。つまりイギリスは、わずか2年の間に5%もの増税を行ったのである。