最新記事

日本経済

消費税率アップで日本経済は悪化するのか?

2019年10月18日(金)18時45分
野口旭(専修大学経済学部教授)

magSR191018_tax2.jpg

CREATIVAIMAGES/ISTOCKPHOTO

この増税により、日本経済は戦後最悪の経済危機に陥った。それは、1996年頃までの緩やかな景気回復の中でそれなりに消化されているようにもみえた金融機関の不良債権が、景気の悪化によって一気に表面化したからである。その結果、1997年末から98年にかけて、日本を代表する金融機関が次々と破綻した。そのようにして生じた金融危機は、その後の日本経済に、デフレという厄介な病を定着させる契機となったのである。

日本経済は、この消費増税を契機とした経済危機の後、一時的な景気回復は見られたものの、経済停滞と財政悪化が同時進行する長期デフレ不況に陥った。そこで生じたのが、「増税による財政再建」論と「デフレ脱却と経済成長を通じた財政再建」論との路線対立だ。

これは要するに、財政再建を優先するか、景気回復を優先するかの対立である。財政再建派は、増税が一時的には景気悪化をもたらすことは認めるが、それは財政破綻を防ぐために甘受すべきとする。

それに対して景気優先派は、財政再建のためにもまずは増税ではなく景気回復によるデフレ脱却が必要だとする。それは、デフレとは物価や所得が継続的に下落することであるから、その物価や所得に依存する税収はデフレが続く限り減少して当然だからである。

こうした財政緊縮論と、反緊縮論すなわち景気優先論の対立は、景気悪化が続けば、日本に限らずどの国でも必ず生じている。2008年9月に米投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻し(いわゆるリーマン・ショック)、それを契機に「100年に1度」と言われる世界的不況が生じたとき、各国は一斉に景気回復のための拡張的財政政策、すなわち財政支出や減税を行った。

しかし、多くの国の財政状況は、厳しい景気悪化に伴う税収の減少と、この財政支出拡大の相乗効果によって、急激に悪化した。その結果生じたのが、2010年春のギリシャ危機を発端として欧州各国へと拡大した、欧州債務危機である。世界各国はこれを契機に、今度は逆に財政再建のための緊縮財政へと舵を切った。

そうした財政政策の右往左往を象徴する国の1つは、イギリスである。イギリスは、リーマン・ショック直後の2008年12月に、景気回復のため、付加価値税(日本でいう消費税)の17.5%から15%への引き下げを、各国に先駆けて実行した。

しかし、財政悪化懸念の高まりを背景として、2010年1月には税率を15%から17.5%に戻し、その1年後の2011年1月にはそれをさらに20%にまで引き上げた。つまりイギリスは、わずか2年の間に5%もの増税を行ったのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

大企業・製造業の景況感が4期連続改善、物価見通し小

ワールド

ベネズエラ、最終的に移行期間と自由・公正な選挙必要

ビジネス

独メルセデス・ベンツ、米アラバマ工場に40億ドル投

ワールド

世界の発電容量に占める再エネ割合、昨年は50%に迫
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 5
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 6
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 7
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 8
    韓国・週4.5日労働制が問いかけるもの ──「月曜病」解…
  • 9
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 10
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中