最新記事

ブラジル

フェイクニュース? アマゾン火災をブラジルが放置する理由

Clearing the Smoke

2019年9月2日(月)17時55分
イザベラ・ディアス

magw190902_Brazil.jpg

ボルソナロ大統領が森林伐採を容認し、農地や鉱山の開発を推進してきたことが今回の火災の一因になったとする見方は少なくない ADRIANO MACHADO-REUTERS

極端な発言がドナルド・トランプ米大統領にそっくりだと言われるボルソナロ自身も、事実を否定したりゆがめたりする常習犯だ。INPEがアマゾン流域の森林破壊が大幅に拡大している事実を指摘したときはINPEの所長を解任。あくまで森林火災は乾期(3〜11月)のためだと言い張ってきた。

だが、地元のNGOであるアマゾン環境研究所(IPAM)は、今年に入り森林火災が最も多く発生した10の自治体は、森林破壊が最も拡大した自治体と一致することを示すデータを発表した。アマゾンの森林火災は明らかに人災なのだ。

アマゾン地域の農家と森林伐採業者は、開墾のために、そして「大統領に働く意欲を示す」ために、「炎の日」と称して公然と広大な森林に火を放った疑いがある。ところがボルソナロは、火を放ったのは政府を悪く見せたいNGOだとする根拠のない主張を展開。メディアもその主張をそのまま報じた。

これを見た環境保護派は、大統領の主張を事実かどうか検証することもなく、そのまま垂れ流すメディアは危険だと厳しく批判した。彼らに言わせれば、それは世論を操作して「市民団体に罪を押し付け」ようとする政府のたくらみの片棒を担ぐことになる。

喜ぶボルソナロの支持者

国際社会におけるブラジルの信用は既にガタ落ちだ。ノルウェーとドイツは、ブラジル政府系の森林保護団体「アマゾン基金」への拠出凍結を決定した。フランスとアイルランドも、ボルソナロ政権が対策を講じないなら、EUと南米南部共同市場(メルコスル)の自由貿易協定を批准しないとしている。

ボルソナロは8月23日、消火活動に軍を投入する意向を発表した。その一方で、その週末のG7首脳会議でまとめられた2220万ドルの緊急支援策は、ブラジルが意思決定プロセスに参加していないとして、受け取り拒否の意向を示した。

そんなボルソナロの態度を批判する国際社会に対して、ブラジル政府はG7がブラジルの主権を傷つけていると応酬し、ボルソナロの右派支持層を大いに喜ばせた。G7に先立ち、ボルソナロを「嘘つき」と批判した議長国フランスのエマニュエル・マクロン大統領に一矢報いたというのだ。

「ボルソナロは非難の応酬を面白がっているように見える」と、グリーンピースのアストリーニは言う。「火災と戦うどころか、マッチで火を付けている」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三菱電機と台湾鴻海、AIデータセンター分野で提携

ワールド

米民主重鎮ペロシ氏が政界引退へ、女性初の下院議長

ワールド

中国商務省報道官、EUとの貿易・投資協定交渉に前向

ワールド

米ユナイテッドとデルタ、7日の便の欠航開始 各20
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 5
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 8
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中