最新記事

ブラジル

フェイクニュース? アマゾン火災をブラジルが放置する理由

Clearing the Smoke

2019年9月2日(月)17時55分
イザベラ・ディアス

8月2日には、違法な森林伐採や野焼きを取り締まるため、アマゾナス州政府が非常事態宣言を発令。だが、ブラジルの一般市民が状況の深刻さに気が付いたのは、熱帯雨林の境界付近から何本もの筋状の煙が上がっている衛星写真をNASA(米航空宇宙局)が公開したときだ。

「アマゾンで起きていることを一般市民に毎日のように気に掛けてもらうのは難しい」と、環境保護団体グリーンピース・ブラジルのマルシオ・アストリーニ公共政策調整官は語る。「だが、サンパウロが暗闇に包まれた事件は、ついに事態をはっきりさせた」

ロンドニア州の州都ポルトベーリョに住む化学専攻の大学生ジョアキム・ギレルメ・ストレロー(22)は、ポルトベーリョでここ3週間、サンパウロで起きたことが毎日起こっていると語る。呼吸困難に陥ったり、目や肌の炎症を訴えたりする人も少なくないという。多くの住民は外出を控え、外出するときはマスクを着用している。

森林に近いコミュニティーでは、延焼による死者も出ている。ロンドニア州のある村では8月半ば、家屋の焼け跡から逃げ遅れたとみられる夫婦の黒焦げの遺体が見つかった。「私たちはじりじりと死に近づいている」と、ストレローは語る。

「ブラジルには2つの異次元空間があるかのようだ。よその地域の人たちは、森林火災に関する統計は政治的イデオロギーに基づく嘘だと言うが、私たちは火災を現実に目撃している。これは政治的な意見ではなくて事実なのだ」

最近の世論調査によると、ブラジルの有権者の88%がアマゾンの森林破壊に懸念を示しており、90%が大統領と議会は行動を起こすべきだと考えている。ところが実際に対策を講じようとすると、たちまちこの問題は政治的二極化を招くことになる。

火災はフェイクニュース?

今回の火災を森林伐採と結び付ける著名人やジャーナリストは、極左の陰謀論者だと批判されがちだ。昨年の大統領選にも出馬したマリーナ・シルバ元環境相は8月、自身のブログで「アマゾンのホロコースト」という表現を使ったところ、ボルソナロの支持者から激しい批判を浴びた。

NASAの衛星写真は、ボルソナロ政権を動揺させるために加工されたものだと主張するツイッターユーザーさえいる。ソーシャルメディアで世界的にシェアされた写真が、過去の森林火災の写真だったことが分かると、「フェイクニュース」だという声は一段と高まった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訪日外国人、13.7%増で9月として初の300万人

ビジネス

金現物が一段高、初の4200ドル台

ビジネス

日経平均は3日ぶり反発、自律的な切り返し 蘭ASM

ビジネス

午後3時のドルは151円前半に下落、根強い米利下げ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 7
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中