米軍がイラン旅客機を撃ち落とした1988年の夏
Long Memories in Tehran
同じく5月、オマーン湾でサウジアラビアやノルウェーのタンカーなど商船4隻が何者かからの攻撃を受けて船体を損傷。6月にもノルウェーや日本の企業が運航するタンカー2隻が標的になった。イランは攻撃への関与を否定しているが、20日にはアメリカの無人偵察機を撃墜。トランプは当初報復攻撃を指示したものの、民間人が犠牲になるのを恐れて結局撤回した。
アメリカの圧力は逆効果
この日の夜、トランプお気に入りの保守系ケーブルテレビ局FOXニュースの特集番組で、ジャック・キーン元陸軍大将はイラン航空655便撃墜という約30年前の「恐ろしい過ち」に言及。イラン革命防衛隊の航空部隊を率いるアミール・アリ・ハジザデ司令官も、20日に無人機を撃墜した際、35人を乗せた米軍のP8哨戒機も一緒に飛行しており、これも撃ち落とすことはできたが思いとどまったと発言した。
衝突は回避されたが、「イランにしてみればアメリカの一部の識者と政策立案者の強硬論は悪い冗談に聞こえたはずだ」と、ベサリウス大学(ブリュッセル)で教えるラグナー・バイラント(国際関係論)は指摘する。
「アメリカは1988年にペルシャ湾上空でイラン航空655便を撃墜したことを、まだ正式に謝罪していない。民間のエアバスA300型機を米軍の巡洋艦ビンセンズがイランのF14戦闘機と誤認したせいで、子供66人を含む300人近い乗員乗客が死亡した」と、バイラントは言う。「そのアメリカが今度は、イラン領空に侵入もしくは接近した無人機をイランが撃墜したからといって戦争をするのか。敵対的な国の無人機が自国の領空に接近したら、アメリカはどう反応するだろう」
ロジャーズは1990年にビンセンズ艦長としての功績を理由に受勲したが、「戦争で荒廃したイランでは、何千万もの人々がさらに厳しさを増したアメリカの制裁に苦しんだ」と、バイラントは言う。「トランプが昨年台無しにした合意の一番の受益者はイラン政権ではなく、イランの一般市民だった」
アメリカはイラン革命以降ほぼ一貫してイランの孤立化を図ってきたが、皮肉にもトランプ流の「最大限の圧力」はかえってトランプ政権を対イラン政策でほぼ孤立させる結果となっている。中国とロシアは6月5日の共同声明でアメリカの対イラン制裁に反対を表明。アメリカの盟友であるヨーロッパも、遅まきながら29日にイランとの限定的な貿易を可能にする特別目的事業体をスタートさせた。