最新記事

北朝鮮

金正恩が韓国・文在寅政権を猛非難「朝鮮半島情勢緊張の主犯」

2019年8月13日(火)11時20分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

北朝鮮が神経質になっているのは韓国が導入したステルス戦闘機 KCNA-REUTERS

<南北対話を推進する韓国・文在寅政権を、金正恩が厳しい口調で非難する理由とは......>

北朝鮮国営の朝鮮中央通信は10日、韓国こそが「情勢緊張の主犯、平和と安定の破壊者である」であるなどと猛非難する論評を配信した。

論評は、韓国が最近「『多様な安保脅威』をうんぬんして軽空母級の大型輸送艦と3隻の新型イージス艦など艦船の建造計画を推し進めている中、F35A戦闘機と空中目標打撃のための迎撃手段、高高度無人偵察機グローバルホークをはじめとする先端武装装備の搬入もエスカレートしている」と指摘。「朝鮮半島の情勢を軍事的緊張激化へと導く危険極まりない行為である」と非難。

また、「F35A戦闘機の搬入問題だけを見ても、それが朴槿恵執権時代に軍部好戦狂らが『対北先制攻撃システム「キル・チェイン」』を構築するために立てた」ものであるなどとして強く反発した。

論評が指摘する通り、韓国の文在寅政権が推進する軍備増強策の多くは、朴槿恵前政権で定められたものだ。「軽空母級の大型輸送艦」構想は日本の護衛艦「いずも」の空母化に対抗して最近浮上したものだが、これは今のところ実現性が乏しい。

参考記事:韓国専門家「わが国海軍は日本にかないません」...そして北朝鮮は

北朝鮮が最も神経質になっているのはやはり、論評も言及しているステルス戦闘機の導入ではないだろうか。なぜなら、朴槿恵前政権は金正恩党委員長に対する「斬首作戦」の推進を検討した経緯があり、ステルス戦闘機こそは、それを実行するための必須の兵器と言えるからだ。

論評はこうした前提の下、「(韓国の)対決狂らは自分らの武力増強策動について『防衛のためのこと』だの、『南北合意に違反しない』だのという詭弁(きべん)を並べ立てている」と反発。続けて「諸般の事実は、対話の相手を狙った武力増強に狂奔する南朝鮮当局こそ朝鮮半島の情勢緊張の主犯、平和と安定の破壊者であることをはっきり示している」と非難している。

北朝鮮の反発の裏には、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)内部の混乱により、韓国側との通常兵器での戦力差がいっそう拡大することへの危惧もあるだろう。

参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

とはいえ、北朝鮮の非核化の見通しが立っていない以上、文在寅政権としても一方的な軍縮に動く選択肢はない。昨年、朝鮮半島は対話と緊張緩和の雰囲気に包まれたが、それも実際には、こうした現実的課題から目を背けた上での一時的なものだったと言えるかもしれない。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「NKNews」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中