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コロンビア大学特別講義

韓国と日本で「慰安婦問題」への政府の対応が変化していった理由

2019年8月8日(木)16時15分
キャロル・グラック(米コロンビア大学教授)

――アメリカにも慰安婦像が建った今、この国も慰安婦論争の現場になっているように見えますが、慰安婦というのは既にアメリカ人の間で共通の記憶になっているのでしょうか。もしそうだとしたら、その物語はどんな筋書きですか。

グラック教授 共通の記憶というのは、はじめから確立された何かがあるのではなく、時間とともに作られ、変化し得る「プロセス」のことを言う。共通の記憶の形成には、公での論争が影響する場合が多いだろう。例えば、ホロコーストや南京事件を否定する行為は、そのたびに人々の意識に残虐行為のイメージを刷り込むという逆の効果を生んできた。

アメリカでの慰安婦像をめぐる論争は、似たような現象を招いている。日本政府が慰安婦像に抗議すればするほど、慰安婦像が建った地域のアメリカ人が慰安婦について知るところとなり、地域のニュースが全米的に報じられれば報じられるほど、慰安婦を支援する活動家だけでなく一般のアメリカ人もこの問題を認識するようになる。

「慰安婦」は、アメリカだけでなく、今や国境を超えて過去における戦争の記憶の一部となり、将来に向けては人権や女性の権利擁護という視点からも語られるようになった。もはや慰安婦像があろうがなかろうが、グローバルな戦争の記憶から消えることはないだろう。

※第1回はこちら:「慰安婦」はいかに共通の記憶になったか、各国学生は何を知っているか
※第2回はこちら:韓国政府が無視していた慰安婦問題を顕在化させたのは「記憶の活動家」たち


『戦争の記憶 コロンビア大学特別講義―学生との対話―』
 キャロル・グラック 著
 講談社現代新書

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