アメリカ心理学会「体罰反対決議」の本気度──親の体罰を禁じるべき根拠

2019年6月21日(金)17時15分
荻上チキ(評論家)、高 史明(社会心理学者)

痛みや不安、恐怖のない「ペナルティ」

まず、「理由づけ+非身体的罰」(Larzelere, Schneider, Larson, & Pike, 1996)は、主たる方略として「理由づけ」を用いるものである。「理由づけ」は、子どもの行為が自他に好ましくない影響を説明すること、より適切な行動を教示することなどといった、ごく一般的なしつけ方略である。

ただし子どもが従わない場合には、「体罰以外のペナルティ」を与えるのだ。例えば、「タイムアウト」は、場所(子どもの気を紛らわす物がない場所。例えばおもちゃに手が届かない椅子の上など)と時間(子どもの年齢によるが数分程度と比較的短時間)を定めて一人でじっとさせ、その間相手をせず子どもが落ち着くのを待つものである。

また「特権の取り下げ」は、それがなければ得られていた「特権」(外出など)を取り下げるものである。

これらのペナルティはそれ単独でもしつけ方略として用いられるものであるが、子どもの問題行動に対していきなり用いるのではなく、まず「理由づけ」を行い、子どもがそれに従わない場合にペナルティとして用いることが、より効果的である。

「バリア」(Day & Roberts, 1983)は、上述「タイムアウト」を拡張したものである。子どもの問題行動に対して、まず椅子に座らせるなどのタイムアウトを行い、子どもがそれに従わない場合には、別室など明瞭に区分されるエリアに移動させてタイムアウトを行う。

デイとロバーツがタイムアウトエリアとして用いたのは空のクローゼットであった。ただし、この「バリア」方略は、子どもに不安や恐怖を感じさせるために行われるのではない。クローゼットの照明はつけたまま、親がいる部屋へのドアも開けたままにし、また親も背を向けこそするものの子どもにもしものことがあればすぐ対応できるようにしておく(そして親がそうした状態であることが子どもにも分かるようにする)。したがって、日本でしばしば行われてきたような「物置や押し入れへの閉じ込め」とは全く異なっている。

ただしドアの場所に子どもの移動を禁じるシグナルである板(「バリア」の名称の由来である)を立てかけ、予告した時間(数分程度)が過ぎるまでは子どもの相手をしない。広いクローゼットを確保するのは日本の住環境では難しいと思われるが、脱衣所などなら用いることができるだろうか。

要するに、子どもの問題行動に対してはまず通常のしつけ方略を試み、それに従わない場合にはより不快なペナルティを与えるという点で、これらの方略は「条件付き体罰」と似ている。ただし、その罰が体罰でなくても、十分に効果を発揮するというわけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は反発、一時5万1000円回復 AI

ワールド

豪貿易黒字、9月は25.6億米ドルに拡大 金輸出が

ワールド

アングル:米民主、重要選挙「全勝」で党勢回復に弾み

ワールド

マクロスコープ:高市「会議」にリフレ派続々、財務省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 5
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 6
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 7
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中