最新記事

都市開発

富裕層向け巨大開発が中流層をニューヨークから締め出す

DEVELOPERS GONE WILD

2019年6月8日(土)16時30分
アダム・ビョーレ(ジャーナリスト)

ファーマン研究所のイングリッド・グールド・エレン所長は「特効薬」はないとしながら、公共交通網の充実を提言する。電車やバスがあれば、遠くに住んでいても通勤は楽になる。

最富裕層が都心部で投資物件を買いあさらないように、自身の居住を目的としない不動産の購入には重く課税するという手もある。ロンドンやパリ、バンクーバーは、既にそうした制度を導入している。もっとも、500万ドルのコンドミニアムをすぐに買える金持ちにとっては、多少の税金の上乗せなど痛くもかゆくもないだろう。

webw190607-ny03.jpg

アマゾンの第2本社誘致は市民の反対で頓挫した Shannon Atapleton-REUTERS

どんな対策を取るにせよ、ロスのような開発業者がフロリダのような批判に耳を傾けるとは思えない。

予想どおりというべきか、ハドソン・ヤードの建設に当たって市から受けた援助は「ニューヨークでゼロから新しい街を開発」するために必要だったとロスは主張する。「今のアメリカには極左の政治家が多くて......ニューヨークに第2本社を建てるというアマゾンの計画も彼らがつぶした。しかし彼らは世の中の本流ではない」

ハドソン・ヤードで7階建てショッピングセンターの建設を取り仕切ったリレーテッド・アーバン社のケン・ヒメル社長は、別の角度から説明を試みる。「ハドソン・ヤードが何なのか、誰も落ち着いて考えていないのだと思う」と、ヒメルは言う。「あれは誰にとっても有意義な施設なのに」

結局は、政治よりも先に経済がいや応なしに問題を解決するのだろう。10年前にフロリダとアリゾナで起きた住宅危機を思い出せばいい。

物件が余れば開発は止まり、不動産価格は下落する。話題の再開発地区に商業施設が誕生しても、高級ブランドはこれ以上店を増やしても勝算はないと考え、出店を思いとどまるかもしれない。閑古鳥が鳴くショッピングモールは珍しくもない。法律が変わらなくとも、ネット通販の台頭でリアル店舗の小売業は撤退を強いられていく。

そうなったら、空き地に低・中所得者向けの住宅をどんどん建ててもらえるだろうか。そうして開発業者と最富裕層と、その他大勢の私たちが共生できる街ができるだろうか。

<本誌2018年6月11日号掲載>

20190611issue_cover200.jpg
※6月11日号(6月4日発売)は「天安門事件30年:変わる中国、消せない記憶」特集。人民解放軍が人民を虐殺した悪夢から30年。アメリカに迫る大国となった中国は、これからどこへ向かうのか。独裁中国を待つ「落とし穴」をレポートする。


20241203issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年12月3日号(11月26日発売)は「老けない食べ方の科学」特集。脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす最新の食事法。[PLUS]和田秀樹医師に聞く最強の食べ方

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港最高裁、同性カップルの相続や住宅の権利認める

ビジネス

ウォルマート、多様性重視の取り組み縮小へ 保守派が

ビジネス

米、リビアンに条件付きで融資承認 ジョージア州にE

ビジネス

基調的インフレ指標、10月は刈込平均低下 22年5
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳からでも間に合う【最新研究】
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 4
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    テイラー・スウィフトの脚は、なぜあんなに光ってい…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    日本株は次の「起爆剤」8兆円の行方に関心...エヌビ…
  • 9
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 10
    バルト海の海底ケーブル切断は中国船の破壊工作か
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中