富裕層向け巨大開発が中流層をニューヨークから締め出す
DEVELOPERS GONE WILD
ファーマン研究所のイングリッド・グールド・エレン所長は「特効薬」はないとしながら、公共交通網の充実を提言する。電車やバスがあれば、遠くに住んでいても通勤は楽になる。
最富裕層が都心部で投資物件を買いあさらないように、自身の居住を目的としない不動産の購入には重く課税するという手もある。ロンドンやパリ、バンクーバーは、既にそうした制度を導入している。もっとも、500万ドルのコンドミニアムをすぐに買える金持ちにとっては、多少の税金の上乗せなど痛くもかゆくもないだろう。
どんな対策を取るにせよ、ロスのような開発業者がフロリダのような批判に耳を傾けるとは思えない。
予想どおりというべきか、ハドソン・ヤードの建設に当たって市から受けた援助は「ニューヨークでゼロから新しい街を開発」するために必要だったとロスは主張する。「今のアメリカには極左の政治家が多くて......ニューヨークに第2本社を建てるというアマゾンの計画も彼らがつぶした。しかし彼らは世の中の本流ではない」
ハドソン・ヤードで7階建てショッピングセンターの建設を取り仕切ったリレーテッド・アーバン社のケン・ヒメル社長は、別の角度から説明を試みる。「ハドソン・ヤードが何なのか、誰も落ち着いて考えていないのだと思う」と、ヒメルは言う。「あれは誰にとっても有意義な施設なのに」
結局は、政治よりも先に経済がいや応なしに問題を解決するのだろう。10年前にフロリダとアリゾナで起きた住宅危機を思い出せばいい。
物件が余れば開発は止まり、不動産価格は下落する。話題の再開発地区に商業施設が誕生しても、高級ブランドはこれ以上店を増やしても勝算はないと考え、出店を思いとどまるかもしれない。閑古鳥が鳴くショッピングモールは珍しくもない。法律が変わらなくとも、ネット通販の台頭でリアル店舗の小売業は撤退を強いられていく。
そうなったら、空き地に低・中所得者向けの住宅をどんどん建ててもらえるだろうか。そうして開発業者と最富裕層と、その他大勢の私たちが共生できる街ができるだろうか。
<本誌2018年6月11日号掲載>
※6月11日号(6月4日発売)は「天安門事件30年:変わる中国、消せない記憶」特集。人民解放軍が人民を虐殺した悪夢から30年。アメリカに迫る大国となった中国は、これからどこへ向かうのか。独裁中国を待つ「落とし穴」をレポートする。
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