天安門事件とライカ、中国人の「民度」を高めようとした魯迅
1989年の天安門事件 REUTERS
<ライカが「タンクマン」で炎上した。「中国の本質とは何か、それは日中関係にも深く影を落としているのか」という疑問を解くカギは、20世紀前半の日本留学生、魯迅と蒋介石の軌跡にあるかもしれない>
4月19日、北京発ロイター電として、「中国でドイツのカメラメーカー、ライカ・カメラが今週発表した、天安門事件を巡る動画が中国のソーシャルメディア(SNS)で『炎上』した」というニュースが飛び込んできた。
5分間の広告動画で、1989年6月、学生たちの民主化デモを中国人民解放軍が武力で弾圧した天安門事件の際、戦車の前に丸腰で立ちはだかる男性の姿をドラマ化したというものだ(最後にライカのロゴを表示して終わるが、その後ライカは動画への関与を否定する声明を出した)。事件当時、この男性は「タンクマン」と呼ばれ、世界中で民主化デモの象徴となり、とりわけ欧米諸国で有名になった。
この報道を見て、すぐに頭に浮かんだのは今春2月、日本で上演された演劇『CHIMERICA(チャイメリカ)』だ。「チャイメリカ」とは、「チャイナ」と「アメリカ」を合体させた造語で、アメリカのハーバード大学教授らが考案したものだという。新進気鋭の脚本家ルーシー・カークウッドの社会派作品で、イギリスで最も権威のある演劇作品に贈られるローレンス・オリビエ賞で5部門を受賞。世界で十数カ国上演された後、日本に上陸した(演出は栗山民也)。
筋立ては、「タンクマン」を撮影したアメリカ人カメラマンのジョー・スコフィールド(田中圭)が、23年ぶりに再会した中国人の旧友ヂァン・リン(満島真之介)から「タンクマン」にまつわる衝撃の事実を聞かされ、彼の軌跡を追い求めるというものである。
私はそのパンフレットに「天安門事件とはなんだったのか」と題して解説文を書いたので、観劇する機会があった。だが、天安門事件から30年が過ぎ、出演者たちも「私はまだ生まれていませんでした」とコメントする昔の事件である。若い観客の多くも知らないはずだから、正直、どんな反応があるのか不安を抱いていた。
しかし、劇場は満員御礼。最後は興奮の渦に包まれ、スタンディングオベーションと拍手の嵐のうちに幕を閉じた。田中圭のファンが多かったせいもあるだろう。満島真之介が熱演したヂァン・リンは、天安事件直後に私が取材した5人の当事者を彷彿させて、当時のことがありありと蘇ってきた。
100年前、「国家」を夢見た蒋介石と、「国民」を見つめた魯迅
天安門事件の翌年、私はアメリカとフランスへ行き、政治亡命した人たちを取材して『柴玲の見た夢』(講談社、1992年)を書いた。事件から10年後には、数人の亡命者の軌跡を追った『「天安門」十年の夢』(新潮社、1999年)も出版した。だが当時から、中国ではなぜ天安門事件のような悲劇がたびたび起きるのかと不思議でならなかった。