最新記事

自然

人を襲う「生きた恐竜」の島閉鎖 インドネシア、ドラゴンとともに観光収入も絶滅回避へ

2019年4月25日(木)19時50分
大塚智彦(PanAsiaNews)

群れでヤギを襲うコモドドラゴン Antara Foto/Wahyu Putro A via REUTERS

<地球に残された貴重な自然や野生動物は世界中の人びとを魅了し、旅の目的地として詰めかける。だが、野生動物の保護と持続的な観光収入のため、一時的に立入禁止を導入するスポットが増えてきた>

インドネシアの東ヌサテンガラ州にあるコモド国立公園は173.5平方キロの面積をもち、コモド島、リンチャ島、パダール島などの複数の島から構成され、また「生きた恐竜」といわれる野生のコモドドラゴン(コモドオオトカゲ)の生息地として知られ、インドネシア国内はもとより世界から観光客が訪れる観光地である。

その国立公園のうち最もコモドドラゴンが生息しているコモド島をインドネシア政府、地元州政府などが2020年1月から閉鎖する方針を明らかにし観光業界に波紋を与えている。

閉鎖の理由は希少動物であるコモドドラゴンを密猟して海外に売りさばこうとする密輸事件が相次ぎ、種の保護が急務となっていること。また観光地化やコモドドラゴンのエサであるシカが減少するなど生息環境が悪化しているためという。

タイではサンゴ礁などの保護のために映画『ザ・ビーチ』(レオナルド・ディカプリオ主演)で有名になったピピレイ島を閉鎖したり、フィリピンでは下水対策の遅れで海水汚染が深刻化したためボラカイ島を2018年4〜10月まで閉鎖するなど、国際的な観光地で一般観光客の立ち入りを禁止する措置が相次いで取られている。

コモド島でインドネシアが同様の観光客立ち入り禁止に実際に踏み切れば同国では初めての例になるといわれており、東南アジアでも環境汚染、自然破壊、希少動物の保護などの問題が深刻化していることを裏付けているといえる。

過去5人がコモドドラゴンの犠牲に

コモドドラゴンは体長2〜3メートル、体重は50〜100キログラムにもなる大型爬虫類有鱗目の動物で、その姿や生態から「生きた恐竜」といわれ、世界中からの観光客を魅了している。

コモド国立公園内のコモド島、リンチャ島、パダール島など限られた周辺の島に野生のコモドドラゴンは生息し、1991年に国連UNESCOの世界遺産(自然遺産)に指定されるとともに、国際自然保護連合(IUCN)によって野生絶滅の危険性がある「危急種」に指定され保護されている。

1981年の調査では7,213頭が確認されたが、2014年には3,093頭しか確認できず、2019年2月にインドネシア環境林業省が行った調査で個体数は2,762頭と発表された。過去5年間でも331頭が減少したわけで、危急種に指定されてからも個体数の減少に歯止めがかかっていないことが明らかとなっている。

コモドドラゴンはイノシシやシカ、鳥類や爬虫類を主にエサにしているが、野生のエサの減少も影響しているのか、1974年以来観光客など30人が噛まれる被害に遭い、うち5人が死亡している危険な生物だ。このため観光客は島内で同行する現地レンジャーの指示に従って行動することが求められる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中