最新記事

「EKIBEN」は美食の国フランスで通用したか? 浄水器持ち込み「本物」のふっくらごはん再現

2019年1月29日(火)17時22分
さかいもとみ(在英ジャーナリスト) *東洋経済オンラインからの転載

また、意外なことも見えてきた。フランス人は主食と副食を交互に口に含んで食べる習慣があることから、カツ丼や牛丼などのように米飯の上に食材を載せた「のせ弁」はフランスではウケない、と考えていたものの、実はこの売れ行きが非常に良かったのだ。

これについてNREの担当者は「フランス人が日本の食スタイルに徐々に慣れてきたという印象を受けた」といい、パリ市内での日本食人気が要因の1つであろうと分析する。さらに、食後のデザート需要が非常に多く、日本風の甘味が駅弁と一緒に売れることに驚きを感じたともいう。

ただ、売り手側が駅弁を「現地のファストフードにはない、プレミアムな付加価値がある食べ物」と位置付けても、1食あたり10ユーロ(1300円)から15ユーロという価格は現地の商品と比べ高めだ。

今回は「日本と同じ水準のものをパリで提供」というテーマがあり、業者が現地入りするという大掛かりな対応を行ったことで、コストが膨らまざるをえなかった。「実はもう少し高く売りたかったが、ほかのテイクアウト商品と比べるとこれが限界」(NRE)と、値付けには難しさがあったようだ。

訪日客がさらに増えれば...?

海外での駅弁販売についてNREは「製造・販売における現地連携パートナーの発掘、物流、販路、事業性の検証など、まだまだ多くの課題があり、持続的なビジネスを行うには課題が山積み」という見方を示す。

しかし今回の販売を通じて、同社はフランスに一定のEKIBENマーケットが存在するとの手応えを感じたという。今回出店した駅弁業者の中には「EKIBEN文化を世界に広め、TGVなどの列車内で食している姿を日常の光景にしたい」(花善)、「駅弁の文化を食の都に広めることはチャレンジ」(斎藤松月堂)といった信念を持ってパリでの販売に臨んだところもある。

現在、日本を訪れる外国人観光客は空前の数に達している。それに伴い、自国に戻った訪日経験者の「本格的な日本食の味が恋しい」との声も聞かれるようになった。今回の販売でもそういったフランス人の購入者は多かったようだ。

NREの担当者は「東京駅にある『駅弁屋 祭』で駅弁を買って食べたことがあると、わざわざ教えてくださったフランス人の方もいらして本当に驚きました。こんなに駅弁が外国の皆さんに浸透しているとは感激です」と語る。

「日本の味」を知る訪日経験者の増加で、フランスをはじめとする欧州や、日本びいきの多い国々での恒常的な「EKIBEN」販売が実現する日は来るだろうか?

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=

ビジネス

ビットコイン一時9万ドル割れ、リスク志向後退 機関

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中