最新記事

中国

Huawei総裁はなぜ100人リストから排除されたのか?

2018年12月31日(月)15時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

ではなぜ1982年から1987年の間だけ、彼はいかなる功績もないのに、党大会の代表(約3000人のうちの一人)になどなったのか、気になるところだ。

最初の妻との関係から政治権力嫌いに

それは彼の最初の妻、孟軍(孟晩舟の母親)の父親・孟東波が四川省の副省長になったからだ。

孟軍と結婚したのは文革の時で、孟軍の父親も職を失った素浪人。そのころ二人の仲は良かった。しかし文革が終わり、孟軍の父親が四川省の役人になり、やがて副省長にまで昇進すると事情が違ってきた。

1982年、孟軍は孟東波の力で深圳の南海石油集団の幹部に就任した。1983年に任正非は中国人民解放軍の建築工程兵を解雇されるのだが、就職先として妻の南海石油集団の下請けサービス会社に回される。それでも職があったのは妻の父親・孟東波のお蔭だ。南海石油集団の幹部にはしてもらえなかったが、その代わりに党大会の地方代表に推薦してあげたのだからいいだろう、というのが孟家の姿勢だった。

任正非の政治権力への抵抗は、ここから始まったと言っていい。

政治権力の力で動かされる嫌悪感は、妻の命令の下で働かされる屈辱から来ていると考えていいだろう。政治権力から自分の人生を切り離すために、任正非は南海石油集団のサービス会社を辞め、孟軍とも離婚してしまう。

それが唯一、任正非が政治と関わった「1982年から1987年」なのである。党大会の代表は5年間続くので、1987年までは辞められない。その意味で「1987年」という年自体が重要だ。

これ以降は、任正非は一切、政治から遠ざかった。二度と、いかなる肩書ももらおうとしなかった。

朱鎔基の経費支援を断った任正非

まさにその「1987年」に、任正非は仲間数名を集めて、わずか2万元(日本円で約30万円前後)でHuaweiを創設した。90年代初期、新しく電話交換機を開発しようとして銀行に融資を頼んだが、どこも相手にしてくれなかった。邪魔をしていたのは離婚した孟軍の父親と国有企業ZTE(中興通訊)だと言われている。

仕方なく大企業に資金を借りたところ、20%から30%の利子が付き、たちまち経営不振に陥ってしまった。そこで従業員たちに「誰でもいいから1千万人民元、どこかから借りてきてくれれば、1年間働かなくても給料を支払う」という懇願をしたほどである。事実、従業員たちは様々なルートで融資を集めてきてくれて、それを会社側が借り入れ、「社内融資」のような形を取っていた。このとき任正非は、会社の株を「1株1元」で従業員に持たせ、「もし失敗したら飛び降り自殺をする」という覚悟でビジネスを展開し始めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ポーランド鉄道爆破、前例のない破壊行為 首相が非難

ビジネス

ユーロ圏の経済成長率見通し、今年1.3%に上方修正

ワールド

フィリピンの大規模な反汚職デモが2日目に、政府の説

ビジネス

野村HD、「調査の事実ない」 インド債券部門巡る報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中