最新記事

資産運用

アジアの富裕層が注目する資産管理手法「ファミリーオフィス」とは

2018年11月12日(月)12時45分

中国やアジアの富裕層は資産管理に対する意識が一段と強まっており、その結果としてこの地域ではいわゆる「ファミリーオフィス」を香港やシンガポールで立ち上げる動きが急増している。写真はシンガポール。16日撮影(2018年 ロイター/Edgar Su)

中国やアジアの富裕層は資産管理に対する意識が一段と強まっており、その結果としてこの地域ではいわゆる「ファミリーオフィス」を香港やシンガポールで立ち上げる動きが急増している。

ファミリーオフィスは、富裕層にとって投資から税務、資産移管、事業継承などさまざまな目的を包括的に満たす組織体制で、バンカーやファンドマネジャー、弁護士、税理士を起用し、場合によっては旅行の手配など追加的なサービスも享受できる。そして香港、シンガポールといったアジアの金融ハブで設立すれば、税制優遇などの利点もある。

既に多数が存在する欧米と比べ、アジアではまだファミリーオフィスは比較的新しい概念で、500社弱しか見当たらない。ただ富裕層にとって個人的な関心に見合った組織にできる上に、資産管理において金融機関に任せるよりも発言権を高められることから人気が広がっている。

このためスイスのプライベートバンク、ロンバー・オディエ・アジアのファミリーオフィス関連サービス責任者リー・ウォン氏は「今年、ファミリーオフィス設立活動が増えているのは間違いない。アジアにおける設立数の伸びは現在のペースが続くはずだ」と述べた。

UBSとPwCが先月公表したリポートによると、昨年末のアジア太平洋地域の富豪は814人と、世界全体の38%を占めた。中国では毎週2人のペースで富豪が誕生しているという。

こうした流れを助長したのは香港の新規株式公開(IPO)ブームで、中国ハイテク企業の昨年1─9月の調達額は過去最高の277億ドルに達し、多くの創業者が富裕層の仲間入りを果たした。

6人のプライベートバンカーの推計を平均したところでは、今年1─9月にアジアで新たに設立されたファミリーオフィスの件数は、前年同期比で15%増加した。

色めく大手行

アジアのファミリーオフィスは、単なる投資用から紛争解決や事業継承計画の基盤にする形へと進化しつつある、と複数のバンカーは話す。

これを受け人材あっせん業者やバンカーによると、ファミリーオフィスの成長性を見込んで、シティグループやクレディ・スイス、HSBC、UBSといった大手行のプライベートバンク部門は、関連サービス事業の拡大を目指している。

シティ・プライベートバンクのグローバル・ファミリーオフィス・グループ会長スティーブン・キャンベル氏は、アジアを含めた顧客数が「劇的に成長」していると説明。アジアのファミリーオフィスチームでは香港駐在の担当者を新規に採用する方針だと付け加えた。

クレディ・スイスのウエルスプランニング・アジア太平洋責任者バーナード・フン氏は、北アジアからのファミリーオフィス需要が急増しているので、従来のシンガポールに加えて、来年第1・四半期までに香港に専門チームを結成するつもりだと語った。

HSBCプライベートバンクの北アジア共同代表を務めるイバン・ウォン氏は「海外に住む中国人資産は増え続けており、ファミリーオフィス事業は長年のトレンドになるだろう」と期待し、同行が2022年までに採用予定の700人のうち一部をファミリーオフィスの顧客専任とする計画を明らかにした。

(Sumeet Chatterjee記者)

[香港 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中