電力会社、伊方原発再稼動で裁判に注力 交付金依存の地元に残る不安とは
交付金に頼る町
原発産業の静かな復活は、伊方町のような地方の町で起こっている。ミカンの産地として知られる伊方町は、瀬戸内海と宇和海に囲まれた人口約9500人ののどかな農村だ。
町の歳入予算が約100億円で、原発交付金等がその3割を占める。1974年以来、伊方町は総額1017億円もの交付金を受け取っている。道路、学校、病院、消防署、祭りに使う太鼓までもが交付金で賄われた。
高門清彦町長はロイターのインタビューで、原発交付金に依存する町の現状について「原発以外にもう1本、もう2本柱を、地域として町として目指す柱を作り上げたい。それが一番の大きな課題だと思っている」と語った。
伊方町と四国電力の相互依存関係の始まりは、半世紀ほど前にさかのぼる。中元清吉・元町長(90)は、当時、町議会議員として原発の誘致に尽力した。自宅の壁には、当時の総理大臣から送られた、日本のエネルギー政策への貢献に対する感謝状が掲げてある。「その当時は農業、漁業しかなかった。貧乏村で、財政再建団体とされ、町営事業もやれない状態。原発を誘致して財政の再建をしなければ、町の発展はできないような状態だった」と話す。
福島原発事故を受け、四国電力は住民に安全性を訴えるキャンペーンを行った。青いユニフォーム姿の社員が、住民の家を1軒1軒回り、伊方原発の安全性を説明した。ミカン農家を営む須加成人氏(54)は「何らかの事故が起きて福島みたいなことになったら、125年間かけて作ってきた産地が一瞬にしてだめになる」と不安を訴える。
住民の多くにとって、原発は生活の一部だ。大森裕志氏(43)は今年の夏、子どもをつれてよく四国電力の「伊方ビジターズハウス」に通った。この施設は原発のPRと同時に、無料の絵画教室など、住民への様々なサービスを提供している。最近、ビジターズハウスでは、来客にバーチャルリアリティ(VR)ヘッドセットを提供し始めた。ヘッドセットをかぶると、3D映像で映し出された伊方原発の上空をバーチャルに飛ぶことができる。しかし、ある週末に訪れてみるとビジターズハウスは閑散としていた。
伊方町は、今後20年間に人口が5000人まで減少すると見込まれている。高門町長は、原発に替わる産業を探すべく葛藤している。
今年になって全国原子力発電所所在市町村協議会(全原協)にも参加した。全原協は政府に対し、原発の新増設や建て替えに関する方針を明確にすることを求めている。
「人口はどんどん減っている。人口減少のカーブを少しでも和らげるのが一番の課題」――そう高門町長は話した。
(斎藤真理 翻訳:宮崎亜巳 編集:田巻一彦)
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