最新記事

原発

電力会社、伊方原発再稼動で裁判に注力 交付金依存の地元に残る不安とは

2018年11月2日(金)11時33分

交付金に頼る町

原発産業の静かな復活は、伊方町のような地方の町で起こっている。ミカンの産地として知られる伊方町は、瀬戸内海と宇和海に囲まれた人口約9500人ののどかな農村だ。

町の歳入予算が約100億円で、原発交付金等がその3割を占める。1974年以来、伊方町は総額1017億円もの交付金を受け取っている。道路、学校、病院、消防署、祭りに使う太鼓までもが交付金で賄われた。

高門清彦町長はロイターのインタビューで、原発交付金に依存する町の現状について「原発以外にもう1本、もう2本柱を、地域として町として目指す柱を作り上げたい。それが一番の大きな課題だと思っている」と語った。

伊方町と四国電力の相互依存関係の始まりは、半世紀ほど前にさかのぼる。中元清吉・元町長(90)は、当時、町議会議員として原発の誘致に尽力した。自宅の壁には、当時の総理大臣から送られた、日本のエネルギー政策への貢献に対する感謝状が掲げてある。「その当時は農業、漁業しかなかった。貧乏村で、財政再建団体とされ、町営事業もやれない状態。原発を誘致して財政の再建をしなければ、町の発展はできないような状態だった」と話す。

福島原発事故を受け、四国電力は住民に安全性を訴えるキャンペーンを行った。青いユニフォーム姿の社員が、住民の家を1軒1軒回り、伊方原発の安全性を説明した。ミカン農家を営む須加成人氏(54)は「何らかの事故が起きて福島みたいなことになったら、125年間かけて作ってきた産地が一瞬にしてだめになる」と不安を訴える。

住民の多くにとって、原発は生活の一部だ。大森裕志氏(43)は今年の夏、子どもをつれてよく四国電力の「伊方ビジターズハウス」に通った。この施設は原発のPRと同時に、無料の絵画教室など、住民への様々なサービスを提供している。最近、ビジターズハウスでは、来客にバーチャルリアリティ(VR)ヘッドセットを提供し始めた。ヘッドセットをかぶると、3D映像で映し出された伊方原発の上空をバーチャルに飛ぶことができる。しかし、ある週末に訪れてみるとビジターズハウスは閑散としていた。

伊方町は、今後20年間に人口が5000人まで減少すると見込まれている。高門町長は、原発に替わる産業を探すべく葛藤している。

今年になって全国原子力発電所所在市町村協議会(全原協)にも参加した。全原協は政府に対し、原発の新増設や建て替えに関する方針を明確にすることを求めている。

「人口はどんどん減っている。人口減少のカーブを少しでも和らげるのが一番の課題」――そう高門町長は話した。

(斎藤真理 翻訳:宮崎亜巳 編集:田巻一彦)

[伊方(愛媛県) 2日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20250211issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月11日号(2月4日発売)は「中国経済ピークアウト」特集。人類史上かつてない人口減で「アメリカ超え」に赤信号 [PLUS] DeepSeekの実力

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、ホンダとの統合協議を白紙に 取締役会が方針確

ワールド

「ガザ所有」のトランプ発言、国際社会が反発 中東の

ビジネス

EU、Temu・SHEINに販売責任 安価で危険な

ビジネス

独プラント・設備受注、昨年8%減 2年連続のマイナ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギー不足を補う「ある食品」で賢い選択を
  • 3
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 4
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 7
    【USAID】トランプ=マスクが援助を凍結した国々のリ…
  • 8
    AIやEVが輝く一方で、バブルや不況の影が広がる.....…
  • 9
    「僕は飛行機を遅らせた...」離陸直前に翼の部品が外…
  • 10
    中国AI企業ディープシーク、米オープンAIのデータ『…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 6
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 7
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 8
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 9
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中