最新記事

環境問題

死んだクジラの胃から大量プラスチックごみ 深刻なごみ対策にインドネシア、バスのフリーライド導入

2018年11月22日(木)12時55分
大塚智彦(PanAsiaNews)

大量のプラスチックごみの犠牲になったクジラがインドネシアのカポタ島の海岸に流れ着いた  REUTERS

<世界的に問題になっているプラスチックごみ。中国に次ぐ海洋ごみ投棄国といわれるインドネシアでもその深刻さを突きつける事件が起きた>

インドネシアのスラウェシ島(旧セレベス島)の東南スラウェシ州ワカトビ県にあるワカトビ国立公園内のカポタ島の海岸に11月18日、1頭のクジラの死骸が流れ着いた。

地元の漁民や国立公園関係者さらに環境保護団体メンバーなどが海岸で死骸を調査したところ、胃の中から大量のプラスチック製のごみが出てきたという。

消化されることなく残された胃の中のプラスチックごみが直接このクジラの死因に関係しているかどうかは、死後の腐敗が激しいため特定することはできなかった、としている。だが今インドネシアなどの東南アジアでは海洋に投棄された大量のプラスチックのごみが海洋の環境汚染だけでなく、海洋生物の生態系にも深刻な影響を与え、プラスチックごみ対策が喫緊の課題であることを、このクジラの死骸は物語っている。

国立公園関係者などによるとカポタ島の海岸に流れ着いたのは体長9.5メートルのマッコウクジラで、その胃の中から合計で約5.9キロものブラスチックごみが回収されたという。

世界自然保護基金(WWF)インドネシア支部の発表によると、このマッコウクジラの胃から回収されたのは①硬いプラスチック片19個②プラスチックカップ115個③ビニール袋25枚④ビニールのヒモ3.26キログラム⑤ペットボトル4個⑥ビーチサンダル2足の合計5.9キロという。

クジラの胃の中に残されたプラスチックごみ


WWF同支部はAP通信に対し「このクジラの死因は推定することはできないが、目の前のこの現実は本当に酷い状況だ」と語ったという。

タイでも同様のクジラ受難

2018年5月にはマレーシアとの国境に近いタイの運河で衰弱したゴンドウクジラ1頭が発見され、保護された。クジラは保護中にビニール袋5枚を口から吐き出したことから、体内に大量のプラスチックごみが残されているとの懸念が起きたものの、発見から5日後に保護活動もむなしくクジラは死亡した。

その後専門家などがゴンドウクジラを解体したところ、やはり胃の中かから大量のプラスチックが発見されたという。この時はレジ袋80枚など合計8キログラムのプラスチックごみが発見され、これが胃に詰まりエサを食べられなかったことが死因との見方が強まった。

タイのクジラ専門家などによると、クジラはプラスチックごみをエサと勘違いして食べてしまい、それが胃の中で消化できないことから滞留して「満腹感」を与え、食欲がなくなるという。そしてエサを摂取しなくなるため栄養失調となり、最後は衰弱して死に至るケースが多いとされている。これまで東南アジアだけでなく、世界各地でこうしたプラスチックごみによるクジラの犠牲は発見されているが、専門家は「見つかるのはごく一部でさらに多くのクジラがプラスチックごみによって死んでいる可能性が高い」と警告している。

タイではクジラだけでなく、ウミガメ、イルカなど年間で300頭以上の海洋生物がプラスチックごみを食べて死ぬ事例が報告されており、早急な対策が環境問題や海洋問題の専門家から指摘されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中