最新記事

経済制裁

南北経済協力、「ドル箱」観光事業復活で制裁違反の懸念も

2018年9月21日(金)08時44分

懐疑派からは、韓国側が非核化交渉の復活を優先し、制裁をないがしろにしていると懸念する声が挙がっている。写真手前右は、韓国大統領に同行したサムスン電子の李在鎔副会長。平壌で18日代表撮影(2018年 ロイター)

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と韓国の文在寅大統領は19日の首脳会談で、経済協力の推進で合意した。懐疑派からは、韓国側が非核化交渉の復活を優先し、制裁をないがしろにしていると懸念する声が挙がっている。

共同記者会見で文大統領は、南北経済協力事業である開城工業団地と北朝鮮の金剛山観光事業を正常化することで両国が合意したと発表した。

両事業は南北の緊張激化を背景に中断されていたもので、貧困にあえぐ北朝鮮にとって過去には大きな資金源となっていた。

文大統領はこの合意について、朝鮮半島を「核兵器と核の脅威のない平和の地」とするための合意の1つだと説明した。

しかしリンゼー・グラム米上院議員は文氏の北朝鮮訪問について、同国に「最大限の圧力」をかけ、核とミサイル開発放棄に向けて背水の陣を敷かせる米国の政策効果を損なうと批判している。

グラム議員は「北朝鮮はミサイルと核装備の実験を中止したが、非核化にはまったく向かっていない。韓国は金正恩にもてあそばれてはならない」とツイッターに投稿した。

ドル箱

開城工業団地は国連安全保障理事会が2017年9月に採択した制裁の対象だ。この制裁は北朝鮮と他国が金融で合弁事業を行うことや、衣料品および繊維の輸出を禁じている。

韓国政府の2016年の文書によると、同工業団地はピーク時に北朝鮮に推計1億1000万ドルの賃金と手数料をもたらした。

また韓国から金剛山への観光は、北朝鮮の警備隊に韓国女性が射殺された事件を受けて2008年に中断。観光事業の再開は、北朝鮮への多額の資金移動を禁じる国連の制裁に違反する可能性がある。

同観光事業はピーク時に北朝鮮に年間4000万ドルの収入をもたらしていた。

韓国の保守政権下で副外務大臣を務めた経歴を持つ高麗大学のキム・スンハン教授は、文大統領が非核化を達成するために制裁に違反する構えだと批判する。「南北関係の進展が非核化の進展につながるなら、小さな異論や制裁違反のような意図せざる付属的被害はオーケーとみなされている」という。

ランド研究所(カリフォルニア)のブルース・ベネット氏は、文氏の戦略は国連の政策と対立する可能性があると懸念。「文大統領は、北朝鮮の望み通りに動けば、トランプ米大統領が何でも同意してくれると期待しているようだ。文氏は深刻なリスクを取っていると思う」と語った。

文大統領の北朝鮮訪問には、韓国最大財閥サムスングループの事実上のトップ、李在鎔サムスン電子副会長など財閥トップらが数人随行した。

(Jeongmin Kim Joyce Lee記者)

[ソウル 20日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中