最新記事

中国

中国アフリカ協力フォーラムで世界制覇を狙う──後押ししたのはトランプの一言

2018年9月4日(火)18時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

ジブチは「アフリカの角」と呼ばれるように、スエズ運河の南方で紅海の入り口にあり、角のように飛び出している形をした国だ。国際自由貿易区は総面積48平方キロメートルで、アフリカでは最大だ。落成式の時点では、まだ240万平方メートルしか完成していないが、10年後には完成する計画で工事が着々と進んでいる。
 
中国にとっては「一帯一路」大経済圏を結ぶ要衝となっており、ジブチには中国の海外軍事基地もある。そこには「五星紅旗」が晴れがましく翻っているではないか。
 
これでも「新植民地主義ではない」と主張する気だろうか。それには無理があろう。

世界制覇を目指す中国にすり寄る日本

ここまでの危機的状況が目前に迫っているというのに、安倍政権はその中国にすり寄ることに熱心だ。まるで習近平に会えることが「勲章」であるかのごとく位置付けている。
 
トランプの「くそったれ国家」発言で、アフリカ諸国をしっかりと「我が物」にしてしまった習近平は、それを意識してかアフリカ諸国の首脳らの前で、いやに低姿勢を演出している。全人代の時のような傲慢な表情もすっかり影を潜め、終始穏やかな笑みを浮かべるという演技まで絶やさない。
 
片や日本。
 
安倍首相は「ドナルドと100%共にいる」とトランプ側に立ちながら、2016年にアフリカ諸国に300億ドルを拠出するとした。しかしアフリカ諸国が結束して反対しているトランプ側に立ち、中国の半額しか出さないとなると、どんなに日本国民の血税を注いだところで、アフリカ諸国は日本側を向きはしない。アフリカ諸国は漁夫の利を得てホクホクだろうが、長期的視点に立つならば、日本はここで中国にすり寄るのが賢明な戦略なのか否かを考えなければなるまい。
 
それよりも、本当に「ドナルドと100%共にいる」のならば、ドナルド・トランプに「日米に不利益を招く発言を控えるよう」アドバイスすべきだし、また対中包囲網を形成して何とか中国の一党支配体制と世界制覇を打ち砕こうとしている「ドナルドと100%共にいるべき」ではないのか。
 
なぜ、中国の世界制覇に手を貸すような矛盾する行動をとるのだろう。
 
日本には確固たる対中戦略が存在するのか、そして安倍首相は本気で「ドナルドと100%共にいる」気はあるのか、ないのか、なんとも歯痒いのである。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

[1970年1月 1日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、大麻規制を処方薬レベルに緩和検討 トランプ氏明

ビジネス

スリランカGDP、第3四半期は前年比+5.4% 回

ビジネス

製造業PMI12月は49.7に小幅上昇、サービス業

ワールド

ゼレンスキー氏、ロシアが和平努力拒否なら米に長距離
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 7
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 8
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中