最新記事

インドネシア

森を再生し森と共存を目指すインドネシアの挑戦 5年で1万本の植林活動

2018年9月17日(月)12時15分
大塚智彦(PanAsiaNews)

tree_03.jpg

人工林の植林は、約1〜2センチの苗木を1本ずつビーカー型容器に「植え付ける」細かい作業から始まる(撮影=筆者)

最先端技術による苗木から植樹

リアウ州の州都プカンバルからバスで約2時間、スマトラ島の手付かずの原生林の中に突如と現れる成木が整然と並ぶ植林地。パルプや紙の原料となるアカシアやユーカリの林である。整然と並ぶ様子からこの林が自然林ではなく、植樹による植林地であることがわかる。

APPはインドネシア国内スマトラ島リアウ州、ジャンビ州、南スマトラ州さらにカリマンタン島の西カリマンタン州、東カリマンタン州の計110万ヘクタールの植林地(東京都の約5倍)でこうした植林活動と紙・パルプの原料確保、生産を続けており、日本でもコピー用紙、ティッシュなどが販売されている。

APPではリアウ州に「植林研究所」を設け、様々な研究を通して植林に最適な種子、苗木の研究を続けている。ユーカリの場合、「成長が早い」「病気がない」「木の中のパルプの量が多い」などの条件に適合した「ベストな木」の芽を摘み、その一つ一つから組織を培養して「クローン」を生産することで大量生産を可能にしている。

また平坦地に適したアカシアは人工林を育てるために1ヘクタール当たり最大で1333本を植樹しているという。こうして植樹された人工林は5,6年で幹の直径が約25センチに成長し伐採可能となるという。

植林研究所では地元の若い女性たちが約1〜2センチの苗木をピンセットで1本ずつゼリー状の培養液が入ったビーカー型容器に「植え付ける」という細かい作業を続けていた。

研究所の屋外には約10〜20センチに生育した苗木が水耕栽培で育てられており、この苗木が植林地に植樹され、成木になり伐採されて紙製品として輸出されるのだ。

かつては森林破壊の元凶と槍玉

APPを擁するシナルマス・グループはインドネシア有数の財閥で「開発の父」と呼ばれたスハルト長期独裁政権(1998年崩壊)下で急速に成長、自然林を伐採して製紙業を拡大していった。インドネシア国内法を遵守した自然林伐採だったが「森林破壊」「自然破壊」と国際的な環境団体などから手厳しく指弾され続けて、顧客離れを招く事態にまでなった。

そこでAPPが選択したのが「自然林伐採の中止」だった。2013年2月に「自然林伐採の即時停止」を目標に掲げて事業を根本から変革。その後は植林した木の伐採で需要の100%を賄っている。

こうした現在の取り組みに関してかつてAPPを「森林破壊の元凶」などと批判した内外の環境団体に「実見してもらい理解を深めてもらおう」とAPPは植樹イベントや現地視察に招待しているものの、いまだに参加へ前向きな返答はないという。

確かに「自然木」と「植林木」の伐採は「木を伐採する」ことでは変わりはない。しかし「ペーパーレス化」を推進するといいながらコピー用紙の需要が高まる中、「現状では低価格、高品質の紙の確保には木を原材料に頼るしか手段がないのが現状」(タン・ウイ・シアンAPPJ会長)という。

そうであるなら「自然木でなく植林木」の伐採、そしてフタバガキなどの植樹による「森林の再生」は最善の策と言えるかもしれない。

tree_01.jpg

記者のインタビューを受けるタン・ウイ・シアンAPPJ会長 (撮影=筆者)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア・ウクライナ復活祭停戦、発効数時間で双方が違

ワールド

米イラン協議決裂、核・ホルムズ海峡で溝埋まらず 停

ワールド

中国、台湾向け観光規制緩和など新措置 野党党首訪中

ビジネス

円高につながる金融政策、「一つの選択肢」=赤沢経産
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけない副作用に研究者が警鐘
  • 2
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦によって中国が「最大の勝者」となる理由
  • 3
    新しいアメリカンドリームは「国外移住」...5人に1人が海外を希望する時代
  • 4
    中国が恐れる「経済ドミノ」
  • 5
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 6
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 7
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 8
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相…
  • 9
    革命国家イラン、世襲への転落が招く「静かな崩壊」
  • 10
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 8
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 9
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 10
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中