最新記事

日本

新たな皇室の時代築いた天皇陛下 戦争と向き合った在位30年

2018年8月15日(水)06時00分

既成の枠にとらわれない

政府の謝罪についての著書があるダートマス大学のジェニファー・リンド教授は「人々は、両陛下が、戦争被害者に対し、真心をこめ、敬意を持って、象徴的、調和的なやり方で手を差し伸べようとしている、とみている」と述べた。

天皇陛下の友人や学識者によると、天皇陛下に戦後教育の基礎を授けるうえで影響があったのは、クエーカー教徒の家庭教師、エリザベス・ヴィニング氏と元慶應義塾大学塾長の小泉信三氏。小泉氏は多くの教え子を戦争でなくした。

天皇陛下の級友だった明石元紹(もとつぐ)氏は「今、日本の国民のほとんどが、陛下は優しく人に対して親切で、人のことを大変に想う天皇だと思っている。それは戦後のこと。戦争をやっている間は、象徴天皇ではなく日本全体を引っ張り戦争する、というのに近い立場だった」と話す。

理論的には、天皇陛下は憲法に違反しない限り、自分が言いたいことを言える立場にある。憲法は天皇を「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」とし、国政に関する権能を有しない、と規定している。

実際に、外交に影響を与えるような発言は、慎重に吟味される。

1990年代に、ブリティッシュ・カウンシルの代表を務めていた際に天皇陛下と交流のあったマイケル・バレット氏は「天皇陛下と皇后陛下は、籠に閉じ込められた鳥だと言われていたが、天皇陛下は、鳥籠の扉を開けた」と話す。

保守派の反撃

1990年5月、韓国政府は1910─1945年の日韓併合について、新天皇による謝罪を求めた。

与党は皇室が謝罪をすることに反対し、当時の海部俊樹首相が代わりに韓国の盧泰愚大統領に謝罪することを申し出た。

しかし、天皇陛下は、こうした際に沈黙を守った昭和天皇とは違う道を選んだ。渡辺允元侍従長は、ロイターに対し「天皇陛下は、日本が韓国の人々に苦しみを与えたということをはっきりさせたかった」と話す。

盧大統領を迎えた晩餐会で、天皇陛下はこう言った。「我が国によってもたらされたこの不幸な時期に、貴国の人々が味わわれた苦しみを思い、私は痛惜の念を禁じえません」。

天皇陛下の即位から、しばらくの間は、日本の戦争責任をめぐる議論が盛んで、1995年の村山富市首相(当時)による謝罪(村山談話)を含め、日本政府の謝罪がたびたび行われた。

こうした謝罪や、学校で子どもたちに日本が戦時中に行ったことについて教えようとする試みは、「自虐的」な歴史を教えることで日本人のプライドやアイデンティティーを損なわせるとして、保守派からの大々的な反撃を引き起こした。

1992年、天皇陛下は近代の皇室として初めて中国を訪問した。国内の右派勢力は訪中に反発、中国の活動家は天皇陛下に謝罪を要求した。

天皇陛下は、中国で「両国の関係の永きにわたる歴史において、我が国が中国国民に対し、多大の苦難を与えた不幸な一時期がありました。これは私の深く悲しみとするところであります」と述べた。

その翌年から、天皇陛下は戦争の舞台となった地への訪問を始める。最初の訪問地は戦争で多大な犠牲を払った沖縄だった。1995年からは長崎、広島などへの「慰霊の旅」を続けた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノルウェー、連立離脱で内閣改造 財務相に人気の前N

ビジネス

配車アプリのグラブとGoTo、合併交渉=関係筋

ワールド

中国、米に最大15%の報復関税 グーグル独禁調査や

ワールド

中国、タングステンなど金属5品目に輸出規制 米関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我との違い、危険なケースの見分け方とは?
  • 4
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 5
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 6
    中国AI企業ディープシーク、米オープンAIのデータ『…
  • 7
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 8
    脳のパフォーマンスが「最高状態」になる室温とは?…
  • 9
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 10
    メーガン妃からキャサリン妃への「同情発言」が話題…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 8
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 9
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 10
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 10
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中